第47話 高校からのお友達②

「ねえ、茉那。さっきからずっと顔色悪いけど、大丈夫?」


不安そうに灯里が尋ねてくる。灯里も本当は美衣子みたいに相手の些細な変化に気を配ってくれる優しい人なのだ。そのことは、もう茉那はちゃんと知っている。


「別に大丈夫だよ……」


「もしかして、まだわたしのこと怖かったりするのかしら?」


灯里が困ったように笑う。


「別に、そういうわけじゃ……」


「なら良いんだけど」


灯里が本心から納得したのかはわからないけど、やっぱり終始茉那に優しかった。これだけ優しい灯里なら、美衣子のことを聞きやすいかもと思い、覚悟を決める。


「ねえ、灯里ちゃんって今でも美衣子ちゃんのこと好きなの?」


だけど、茉那の質問を聞いた瞬間、穏やかだった灯里の表情が一瞬で強張った。


「は? 何よいきなり?」


灯里が口角を尖らせて、ムッとしている。このままでは、せっかく心地よい空気が流れていたこの空間がギスギスしたものになってしまう。やっぱり灯里の前で美衣子のことは話題に出すべきではなかったのかもしれない。


だから、茉那は慌てて話題を変えようとする。


「ごめんね、灯里ちゃん。やっぱり今の質問無しにして欲し――」


だけど、それより先に灯里が視線を窓の外にぼんやりと向けながら静かに答える。


「美衣子のことなんて嫌いよ……」


あれだけ美衣子のことを愛していた灯里がそんなことを言うなんて。右手で頬杖をついて、寂しそうにため息をつく灯里を見ていると、美衣子と灯里の間にやはり何かあったことが伺えた。


茉那が何か気の利いた、場の流れを変えるようなことを言おうと思ったけれど何も思いつかなかった。


おかげで時計の秒針の音が聞こえてしまうくらい静かになったけど、それでも灯里は暫くの間、ぼんやりと外を見続けていた。


この感じだと少し時間を置けば灯里の感情も落ち着きそうだと感じ、茉那がホッと息を吐いてからコーヒーカップの持ち手に触れたときだった。


「で、あなたは一体何を企んでいるのかしら?」


灯里は眼光を鋭くして、茉那の方を睨みつけた。どうやら、灯里の中で少し時間を置いてからやってきた感情は冷静さではなく怒りだったようだ。


茉那の指先が震え、コーヒーカップがソーサーに触れる。カシャカシャとした小刻みな音が随分と大きく聞こえた。


「えっと……」


茉那は口をもごもごとさせるけど、咄嗟には何も言葉がでてこなかった。


懐かしい、高校時代にたくさん見た灯里の怖い顔。やっぱり美衣子の名前を灯里の前で出してはいけない。なんとか言い訳を考えようとするけど、頭の回転の速い灯里は茉那がちょうど良い言葉を思いつくよりもずっと速いテンポで詰問を続ける。


「どうして突然美衣子の話をするのかしら? あなた今までわたしと会う時はあえて美衣子の話を避けるようにしていたと思うけど?」


「それは……」


しどろもどろしている茉那が考える間もなく灯里が続ける。


「最近美衣子に会ったの?」


「えっと……」


「いつ会ったの? どこで? こっそり仲良くしてたのかしら?」


茉那が明らかに挙動不審になったせいで、灯里は茉那が美衣子と会ったことを確信していた。このままでは、茉那は昔みたいに灯里に気圧されてしまう。


でも、もう昔とは違うのだ。


良くも悪くも昔の気弱だった茉那とは変わったのだ。


茉那はそっと唇を撫でた。いつもより濃いめの、真っ赤なルージュを触ってから、大きく息を吸った。

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