第42話 不思議な夢②
「ねえ、美衣子……。わたしは美衣子のことが好きなのよ!」
さらりと伝えられたけど、こんな状況で好きと伝えられても何も嬉しくない。
美衣子は拒もうと思ったけど、先程までとは様子ががらりと変わっていたせいで、灯里に苛立ちを伝えるタイミングを逸してしまった。
いつの間にか、美衣子は高校にいたのだから。
教室内にはクラスメイトがいて、美衣子と灯里は隣同士の席。灯里に奪われたはずの元カレもどこかに消えていた。
「美衣子、教科書忘れたの? わたしのを貸すわ」
何事もなかったかのように、制服姿の灯里がサラリとした黒髪を揺らしながら、微笑んだ。
「教科書って、わたしはもう高校を卒業しているはずよ」
「何言ってるの美衣子? 冗談言ってる場合じゃないわよ。授業中なんだから、ちゃんと聞いておかないと怒られてしまうわ」
「授業中って、わたしは今まで茉那の家にいたのよ?」
美衣子の言葉を聞いて、灯里の表情が一気に曇ってしまう。そう言えば、灯里は茉那のことが大嫌いだった。
「美衣子、茉那の家ってどういうことよ!」
「どういうことも何も……」
説明が面倒だなと美衣子が思っていると、突然灯里が立ち上がり、美衣子の肩を掴んだ。
「え、灯里。今授業中なんでしょ?」
状況に納得は出来ないけれど、灯里の言葉と周囲の光景を見るに、今美衣子はなぜか高校時代の教室で授業を受けているのだから、ここで優等生の灯里が突然立ち上がるなんて大問題だ。
だけど、その直後、立ち上がるなんて比じゃないくらい授業中にするには適さない行為を灯里は行った。灯里がフッと吐き出した吐息が美衣子の鼻先にかかるのとほとんど同時に、美衣子の唇に灯里の柔らかい唇が触れた。
(ちょっと、灯里……!?)
授業中に突然立ち上がってキスを始めるなんて非常識にもほどがある。だけど、周りの子たちどころか、授業をしている先生も淡々と、何事もなかったかのように授業を続けていく。
(灯里、本当に何してるの……!?)
美衣子の動揺なんて気にせず、灯里は教室のど真ん中で、美衣子へのキスを続けた。
灯里のほんのり生ぬるい舌が、美衣子の口内を縦横無尽に動いている。口内に入って来た舌から美衣子は必死に自分の舌を遠ざけようとするけれど、すぐに灯里の舌に追いつかれてしまった。
暫く舌同士を触れさせると、今度は灯里の舌が美衣子の口内をすべて撫で尽くすつもりなのかと思うくらい、ゆっくり、丁寧に、隅々まで動いて行く。時折漏れてくる灯里の呼気が随分と艶めかしかった。
こんな異様なことが教室内で起きているのに、誰も気にも留めないなんておかしい。
(灯里、やめて! 恥ずかしいから!!)
「ダメよ、美衣子。あなたが茉那と仲良くするから悪いのよ」
美衣子は心の中で声を出したと思っていたのに、なぜか灯里には伝わっているし、しかもキスをしているはずなのに、灯里はまるで美衣子の脳内に語り掛けてくるみたいに話してくるし、さすがにこれはおかしい……。
これも昨日茉那がご飯中に変な質問をしてきたからだ。
それとなく状況を理解した美衣子は、思い切り布団を剥いで勢いよく起き上がった。
寝起きにしては随分と早い脈拍を落ち着かせるために、ゆっくりと何度も深呼吸をする。
「はぁ……。ほんと、夢にまで出てくるなんて、灯里のことなんて嫌いよ……」
大きなため息をついてから美衣子はそっと人差し指と中指を自分の口内に突っ込んでみた。日中よりもほんのりべたつく口内の感触が指先に伝わる。
「いつもよりもしっかりと歯磨きしておこうかしら」
気怠そうに立ち上がり、美衣子は洗面所へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます