第41話 不思議な夢①

気付くと美衣子はファミリーレストランにいた。真正面に座っている灯里はプリンアラモードをスプーンで掬いながらとっても楽しそうな笑顔をこちらに向けている。


全体的に暗めで辛口コーデの私服姿だから、多分目の前にいるのは大学時代の灯里。ずっと茉那の家にいたはずなのに、いつファミレスに来ていたのかはよくわからない。


クールな姿でスイーツを頬張っている灯里の姿なんて普段はほとんど見ないから、少し不思議な感じがした。


「ねえ、美衣子。今年美衣子は誕生日に彼氏さんと一緒に過ごしたんだから、クリスマスくらいは一緒に過ごしましょうよ」


灯里は恋人みたいにとびきり甘い声をだしてくる。


「気持ちは嬉しいし、わたしも灯里と一緒にクリスマスを過ごしたいわ。でも、悪いけど今年は彼と一緒に過ごす予定だから」


たしか、美衣子の彼氏はクリスマスに一緒に過ごすことを楽しみにしていたはずだ。よく覚えてはいないけど。


「嫌よ、美衣子。あんな浮気性の彼氏よりも、わたしと一緒に過ごした方が絶対楽しいわ!」


浮気性と言われて彼氏のことをバカにされているはずなのに、なぜかさほど怒りの感情はなく、灯里と一緒にクリスマスを過ごすことができないことへの申し訳なさのほうが、感情としては勝っていた。なぜだろう。


「ごめん、灯里。でもわたし彼のことが好きだから」


「ねえ、美衣子……。嫌よ……」


目を潤ませて懇願する灯里に対して申し訳ない気分にはなるけれど、それでも頷くことはできなかった。美衣子がゆっくりと首を振るのを見て、灯里が今度は憐れむような目で美衣子を見つめた。


灯里が寂しい思いをしていたはずなのに、なぜだか美衣子の胸に寂しさが押し寄せてくる。


「ねえ、美衣子。あなたの言う彼ってこの人のこと?」


灯里がそう言うと、突然灯里の横に美衣子の彼氏が出てくる。いつの間に向かい側のシートに座っていたのだろう。その姿は確かに付き合っていた彼で間違いないはずだだけど、その顔はぼんやりとしていて上手く思い出せなかった。


その不思議な状況に疑問を持つこともなく、とりあえず美衣子は自信を持って、できるだけしっかりとした声で答えようとした。だけど上手く声は出ずに、上擦った声で答えてしまう。


「そ、そうよ。わたしの彼氏よ。付き合っているのよ。愛しているのよ」


声が上擦ったこともあり、棒読みの大根役者のようなセリフになってしまう。まったく愛のこもっていない言葉が彼氏に投げかけられた。


「そうなのね。でも、残念だわ。この人はもうわたしのものなのよ」


灯里がそっとイマイチ顔の思い出せない美衣子の彼氏の頬に口づけをした。灯里が表情を変えていないのとは対照的に、彼氏の方は喜びいっぱいの表情をしている。


そりゃそうだ。灯里はスタイルが良くて、とても綺麗だもの。


サラサラとした長い髪の毛をなびかせて、空気を漂う柑橘系の甘い匂いがテーブルを挟んだ美衣子の鼻孔にも入ってくる。


ほんのりツリ目気味の目が、美衣子の方を見据えた。


「美衣子がわたしを選んでくれたら、わたしだってこんな選択をしなくてもよかったのに……」


その瞳には寂しさと憐み、二つの感情が宿っているように見えた。

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