第35話 新生活②
「美衣子ちゃんはここの部屋好きに使ってくれたらいいからね。服とかおいてる部屋だから、狭くなっちゃっててごめんね」
茉那に案内されて部屋の中を覗いてみると、確かにハンガーラックが3つくらい置いてあるし、その奥には小さなウォークインクローゼットまである。それでも元の部屋が広いから、今の美衣子が過ごしている実家の自室よりもずっと広く感じる。
「あんた、どんだけ服買ってるのよ……」
「可愛いの買ってたらいつの間にかこんなことになっちゃってて……」
茉那は苦笑しながら呑気に言うけど、これを買うのにどれだけお金がかかったのだろうか。
「どんだけ儲かってるのよ……」
今度は美衣子が苦笑した。茉那は話を変えるみたいに背中を向ける。
「じゃあ、わたしは動画の編集するから好きにくつろいでくれたらいいからね。狭いところで悪いけど」
「別に狭くないわよ。ちょっと荷物置いたらご飯作るわね」
美衣子が準備をしようとしたけど、茉那が振り向いてクスリと笑った。
「いいよ、別に。本当はわたしは美衣子ちゃんがうちに来てくれただけで嬉しいんから、適当に部屋でくつろいでもらって、時々構ってくれるだけでわたしは嬉しいから」
部屋でくつろいで家主と戯れるのが仕事なんて、まるでネコみたいだな、と思いながら美衣子は苦笑する。
「そういうわけにはいかないわよ。家賃だって払わずに居候させてもらうわけだし、家のことくらいはするわ」
「いいよ、ほんとに。泊ってくれる上に家のことまでさせたら……」
泊めてもらっているのは美衣子なのに、泊ってくれることを喜んでくれるなんて、相変わらず茉那はズレている。でも、悪い気はしない。美衣子は思わず笑みを浮かべてしまった。
「いいのよ。お金貰うだけで働かなかったらわたしが茉那からただでお金もらっていることになっちゃって嫌なのよ。だから、茉那は気にせず動画の方やっておいてよ」
美衣子は茉那の背中を押して部屋から出て行かせると、とりあえず家で適当にまとめてきたカバンの中の荷物からエプロンを引っ張りだした。
この部屋は段ボールが部屋の端に積まれていたり、荷物も多いから少しだけ埃っぽくて、美衣子はクシュンと小さくくしゃみをした。。
「さ、茉那が動画撮っている間にダイニングまで一気に片付けちゃいましょっと。この部屋も埃っぽくなってるから、掃除しないとね」
実家暮らしをしていたころの自分の部屋には埃どころかゴミも置きっぱなしになっているのに、茉那の前ではやっぱり少しでもしっかりした人でいたい。高校時代に自分に憧れてくれた子にダメなところは見せられない。
美衣子は堕落した生活とはおさらばするみたいに、気合を入れてエプロンの紐を力いっぱい結んだ。
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