第36話 酔ったみたい①

「え、すごい! これ全部美衣子ちゃんが作ったの?」


テーブルに並ぶのはチーズフォンデュ、カルボナーラ、ピザ、シーザーサラダ、パンプキンスープと2人で食べるにはかなり多すぎる量になってしまった。


今日は茉那の家で働くことになった初日ということもあり、冷蔵庫にあるものでできるだけ豪華なものを作ろうと思って頑張ったけど、思ったよりも作りすぎちゃったかもしれない。


金銭面を何も考えずに好き勝手してしまったことについては、暫く実家で半引きこもり生活をしていたせいもあるのかもしれない。


「ちょっと作りすぎちゃったかもしれないわ」


「たしかに2人で食べる分には多すぎるかもしれないね……」


茉那は苦笑しながら、広い台所に置いていた家庭用のワインセラーからワインを取り出した。


「でも、今日から美衣子ちゃんと一緒に生活できるわけだし、そのお祝いパーティーってことにしたらいいんじゃない? 美衣子ちゃんのお料理いっぱい食べられて嬉しいな」


コルク抜きをコルクに刺しながら、茉那が楽しそうに笑う。スーパーに置いてあるようなワインはコルクを使っていないものも多いから、良いワインなのかもしれない。だけど、なんだか茉那がアルコール類に興味があるなんて意外だと思い、美衣子は尋ねる。


「茉那ってワイン飲むの? 意外と酒豪だったりするのかしら?」


「ううん、全然だよ。すぐ酔っちゃうからお酒はあんまり飲まないけど、結構送られてくるんだよね?」


茉那が手元のコルク抜きを一生懸命回しながら答える。


「送られてくる?」


「そうそう。一緒に仕事する人とか、動画見てくれてる人からとか」


「すごいのね……」


ワインがいっぱい送られてくることも凄いけど、飲まないワインを保管するためにわざわざワインセラーを買ってしまうのも凄いと思って美衣子は苦笑した。


「で、これがこの間コラボ動画撮った時にお酒関係の動画撮ってる男の人に貰ったやつ。すっごい高いやつらしいんだけど、正直よくわからないんだよね」


茉那がペロッと舌を出した。


茉那が綺麗なワイングラスを2つ軽く洗ってから持ってきたけど、どちらもピカピカで、ほとんど使ったことが無さそうだった。


「美衣子ちゃんと飲めるのなら高級なワインじゃなくても、100円のぶどうジュースでもいいんだけどね」


茉那は終始嬉しそうだった。感情表現に乏しかった高校時代の茉那と違い、とてもわかりやすい笑顔を作っている。高校時代のどこか自信なさそうな笑みではない、自身に満ち溢れた笑顔を。


自分に自信を持ってくれるようになったのは嬉しいことのはずなのに、なんだか茉那が美衣子よりもずっと凄い人に見えてしまい気後れしてしまう。

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