第33話 再再会⑤
「とりあえず、悪い話じゃなさそうだからわたしは良いけど、そういうのって普通もっと料理の上手い人に頼んだりするんじゃないの?」
茉那はお金をもってそうだし、美衣子に頼むよりも、もっと適した人がいそうな気がしてしまう。少なくとも美衣子の料理スキルはごくごく平凡なのだから。
「えっと、それは……。あ! だってほら、高校時代に結局美衣子ちゃんのケーキあれからもう食べられなかったから、あのときの約束の代わり、みたいな……」
思い切り今適当に考え付いた理由感は満載だけど、たしかに事実として高校時代のクリスマスの日にパウンドケーキを焼いた時、また今度作ってあげると言ったのに、結局茉那にケーキを作ってあげることはなかった。
茉那が美衣子の作るものに喜んでくれるのなら、住み込みでご飯を作るのも悪くないと思う。とはいえ、その誘いを受けるには、一つ確認しておかなければならないことがある。
「……ねえ、茉那は今わたしのこと好きなの? 嫌いなの? さっきまですっごい不機嫌だったけど、今は昔と同じ優しい茉那になってるし。今の茉那のわたしへの感情がわからないとその話を受けてもいいのかどうかわからないわ」
美衣子の言葉を聞いて、茉那が苦笑いしながら謝る。
「当たり前のことだけど、わたしが美衣子ちゃんのこと嫌いになるわけないよ。さっき会ったばかりのときには嫌な態度取っちゃってごめんね。さっきも言ったけど、わたし美衣子ちゃんに忘れられたのが悲しくて、つい意地悪しちゃったんだ。このお店に来ても、わたしよりもスマホアプリの中の男の子のほうばかり見てたから、なんだか悲しい気持ちになっちゃって……」
そう言われると、美衣子に返す言葉はなかった。高校時代に一時期だけとはいえ、あれだけ仲良くしていた子のことをパッと思い出せなかったのだから。
「そりゃ美衣子ちゃんに忘れられたなんて、わたしショックなんてレベルじゃなかったんだよ? あの日は晩御飯食べられなかったし、眠れなかったもん。美衣子ちゃんはわたしのことを変えてくれた恩人だし、昔からずっと好きだよ。さすがに恋愛感情はもう持ってないけど」
茉那が苦笑いをする。美衣子は突然恩人扱いされたことに疑問を抱きつつも、とりあえず嫌われてはいないようでホッとした。
実家を出て茉那の家に住み込みをすることには、不安と期待が入り混じる。だけど、今のだらしない生活を続けていたら、きっともっとダメになってしまう。
「わかったわ。じゃあお言葉に甘えて暫く茉那の家でお世話になるわね」
「やった! でも、なんだか美衣子ちゃんがうちに住んでくれるなんて信じられないよ」
胸元で小さくガッツポーズを作り、喜ぶ姿は確かに茉那だ。高校時代に見た無邪気な可愛らしい姿そのままだ。だけど、今の垢抜けて大人びた茉那が無邪気で子どもらしいポーズをすると少し不思議な感覚になった。
いずれにしても、とんとん拍子で話が進んで行き、美衣子は茉那の家で住み込みの仕事をすることになったのだった。
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