第32話 再再会④

「気持ちは嬉しいけど、わたしにはそのお金は受け取れないわ」


握らされた10万円をそのまま茉那の胸元に押し付けるみたいにして返す。


「美衣子ちゃん、どうしたの? お金困ってるんじゃないの? 返せるかどうかの心配だったら返す時期なんていつでもいいし、なんなら返さなくても――」


「いいから! いらないって言ってるでしょ!」


美衣子がきつめの口調で言ったから、茉那が小さな声でごめんね、と言う。カフェ内がしんと静まり返ってから、美衣子が落ち着いた調子で続けた。


「茉那が優しい気持ちで言ってくれてるのはわかるけど、いらないわよ。茉那とはお金の貸し借りなんてしたくないもの」


今の美衣子と茉那の金銭感覚はビックリするくらい違っていそうだ。きっと茉那からしたら10万円を貸すことくらいなんともないのだろう。


だけど、仲の良かった茉那から大金を借りるなんて抵抗がある。ましてやそのお金はせっかく借りても大半はアプリの課金に使ってしまうのだろうし。


美衣子の言葉を聞いて、茉那がそっか、と頷きながら考え込む。そして、少し考えてから、両手をパンと合わせた。


「じゃあさ、わたしの家で住み込みでご飯作ってくれないかな? 毎日じゃなくて美衣子ちゃんの気が向いた時に。それでわたしがお礼として美衣子ちゃんにお金を払うの。家賃は取らないし、部屋は一部屋丸々貸すよ。お金の貸し借りじゃなくて、わたしが美衣子ちゃんにお願いしてご飯を作ってもらって、そのお願いを聞いてもらうから、その代わりにお金を渡す関係。これなら貸し借りにはならないでしょ?」


「無理にお金を貸してくれようとしてるところ悪いけど、別に茉那からお金を受け取りたいわけじゃないのよ? 茉那は優しいからわたしのためにいろいろ考えてくれてるんだろうけど」


「うーん……。美衣子ちゃんのためというより、わたしのためっていうか……。わたしが美衣子ちゃんにご飯作って欲しいの」


「わたしがご飯を作るのが茉那のためになるって、どういうことよ?」


「えっと……。わたし今自分のことする時間なくて、すっごく適当なご飯を食べてて栄養も偏ってて体に悪いから、美衣子ちゃんに助けてもらいたいな、なんて思って……」


さっきから答えるまでに時間がかかっているから、その言葉が本心なのかはわからない。ただ、理由はともかく茉那が美衣子に家に来て欲しがっていることはわかった。


無言の圧力で結婚するか正社員になってきちんと自立した生活をするかの二択を迫ってくる実家から出られるのも良いし、高校時代と別人みたいになっている今の茉那がどんな生活をしているのかも気になった。


茉那と一緒の生活はなんだかお泊り会みたいで楽しそうだし、悪い話ではないと美衣子は思った。


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