第31話 再再会③
茉那の気持ちが和らいできたところで、美衣子は改めて頭を下げた。
「ねえ、茉那。この間は本当にごめん……。茉那のことちゃんとすぐに気づいてあげたかったのに、できなかったわ……」
美衣子が謝ったのを聞いて、茉那は小さくため息をついた。
「すっごくショックだったよ」
茉那は困ったように笑った。美衣子を傷付けないようにできるだけ穏やかな声で伝えてくるから、さっきまでのキツイ態度の時よりもずっと申し訳無い気分になってしまう。
「ごめん、茉那……」
「まあでも、わたし結構変わっちゃったから、本当は気付かれなくても怒っちゃだめだよね……」
寂しそうに笑う茉那を見て、美衣子は首を振る。
「それでも、わたしたち高2のときにあれだけ仲が良かったんだから気づかないとダメだったと思う」
本当は久しぶりに会ったあの日も途中から茉那ということに気付いていたけど、そこは伝えずに続けた。
「でも、今の茉那はとても素敵になってるし、良かったわ」
もっとも、高校時代からずっと茉那は優しくて可愛らしくて魅力的だったことを美衣子は知っていたけど。
「素敵になってるのかな……」
小さなため息とともに茉那は寂しそうに笑う。
「なってるわよ! とっても綺麗になってるから、変わっているにしても、とってもいい方向に変わっていると思うわ」
「いい方向って、美衣子ちゃんはわたしとずっと会ってなかったでしょ?」
茉那が美衣子に目を合わせず、手元のカップを見ながら、少しきつめの口調で言う。
美衣子としては気分をよくしてもらえると思って言ったのに、機嫌を損ねてしまったみたいで困っていると、茉那は俯いて毛先を指で弄びながら、付け加えた。
「でも、そう見えてるのなら、ありがとう。美衣子ちゃんは優しいね」
エアコンの風が茉那の前髪を揺らした。高校時代とは違って、目元までしっかりと表情は見えるのに、あのときよりも遥かに本心はわかりづらかった。
その後はたわいもない、無難な近況報告をしていると、茉那が手首に巻いている、綺麗な腕時計を見て、小さく「あっ」と声を出してから慌てて立ち上がった。いつの間にか茉那と会ってから30分くらい時間が経っていた。
「ごめんね、そろそろ動画の編集作業に戻らないと間に合わなくなっちゃう。また会おうね」
とりあえず、また会ってもらえそうで安心した。そう思って財布を開いた美衣子があっ、と小さく声を出した。そして、言いづらそうに茉那に声をかける。
「ごめん、茉那……。その……久々に会ってとっても言いづらいんだけど……、お金貸してもらってもいいかしら……」
「忘れちゃったの?」
「忘れちゃったというか……」
美衣子が小銭で100円玉が3枚と1円玉が2枚だけ入った財布を見せた。茉那がその意味がわからなさそうに首を傾げる。
「これが今のわたしの手持ち」
「普段はあんまり現金は持ち歩かないってこと? でも、ここのお店個人経営だけどカードも使えるよ。あ、でもそもそも今日はわたしの奢りだから気にしないで」
茉那が次々と勝手に話を進めていくから、美衣子がゆっくりと首を横に振ってから苦笑する。
「わたしの全財産は今5000円くらいしかないのよね」
美衣子の言葉を聞いて、茉那が硬直している。
「えっと……。生活できてるの……?」
「実家暮らしだから大丈夫よ」
そもそもアプリの課金にお金を使っていてお金が無いのだし、多少きつくても美衣子自身の責任だと思っている。そんなことを考えていると、茉那は財布からお札を引き抜く。
「ごめんね、今これしかないけど」
そう言って茉那が渡してきたのは1万円札が10枚ほど。美衣子は思わず困惑してしまう。
「待って、茉那っていっつもこんなにも持ち歩いてるの?」
「雑貨屋とか行く日は現金しか使えないからもうちょっと多いけど、基本はカード払いだし、普段はこのくらいかな」
「儲かってるのね……」
時給920円の自分とは住む世界が違うみたいで茉那のことがとても眩しく見える。本当はありがたく受け取った方が良いのかもしれないけど、美衣子にはそれは出来なかった。
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