幕間 あなたは美衣子?②

「ねえ、美衣子ちゃん。美衣子ちゃんはわたしのこと茉那なんて風に呼ばないけど?」


拒むように体を引き離しながら茉那は目の前の女の子に冷たい視線を向け続けた。甘い時間は終わり、上下関係の厳しい部活動で先輩が後輩を叱っているときのような冷たい空気が流れ出す。


「あ、ご、ごめんなさい……。茉那さん、じゃなくて茉那と一緒になれてうれしかったので、つい……」


「美衣子ちゃんはそんなにおどおどしていないんだけど」


「茉那、ごめん……」


「今更慣れない呼び捨てで無理やり呼ばれても嫌な気分になるだけから」


慌てて美衣子に似せた口調で謝ろうとしてくるけど、そもそも本物の美衣子と会ったことの無いその子の口調が美衣子に似るわけがなかった。


茉那の冷たい声を聞いて、“美衣子”がまた体を震えさせた。その様子を見て、今度はわざとらしく大きなため息を吐き出す。


「悪いけど、今日は帰ってもらってもいいかな?」


できるだけ、大学で再会する前までの優しい笑顔を作りながら茉那が伝えたけれど、目の前の美衣子に似せた子はすっかり落ち込んでしまっていた。


「ごめんなさい……」


目を潤ませて、俯きながら寂しそうに服を着ていくその子に対して罪悪感が無いわけでもないけれど、今の茉那には人のことを気遣ってあげられる余裕なんて無かった。


服を着終えて寂しそうに去っていく“美衣子”がほんの一瞬だけ立ち止まって茉那の方に振り向いた。呼び止める言葉を期待していたのかもしれないけれど、茉那は裸のまま、「じゃあね、気を付けて帰ってね」と笑顔で伝えた。“美衣子”から見れば、その笑みは不穏な作り笑いにしか見えていないかもしれないという自覚はある。


そして、いくらここから近い場所に住んでいるからと言って、夜の遅い時間に年下の女の子を一人で家に帰すのは可哀想ではあるし、大学で二度目の再会を果たすまでの茉那とその子との関係性を考えると、絶対にしてはいけない事だということもわかっている。


それでも茉那は、去っていく寂しそうな後ろ姿を何も考えずに眺めていた。


一人きりになり、途端に広くなった大学近くの1Kのアパートの部屋の中で、茉那は寂しそうに笑う。


「わたしも随分変わっちゃんだろうなぁ……。ごめんねみーちゃん、悪いとは思っているけど、きっとこの関係はもう変わらないと思うよ……」


ベッドから立ち上がった茉那はとりあえず台所で水を飲んで、お風呂に入る準備をする。そっと触った乳房はほんの少しべたついていて、まだあの子の残した唾液が付いていた。

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