Ⅱ
第28話 思い出した美衣子
「それにしても、まさかこんな形で茉那と再会できるなんてね……」
家に帰ってから、美衣子は部屋の床置き机に突っ伏しながら、だらしない格好をして、スマホで動画を見ていた。
高校2年生の終わりに茉那に拒まれて以降まともに話をしていないし、高校を卒業してからは8年近く姿も見ていなかったから、もう出会うことはないと思っていたのに。それがまさかあんな街中でバッタリ出会うなんて、美衣子は未だに信じられなかった。
美衣子の中にパッと出てくる茉那の姿は重たくて長い前髪で目を隠した大きなメガネをした小柄な女の子。終業式の日にメイクをしたときもナチュラルだったから、可愛らしかったけど、大人しそうなままだった。
それが、前髪をシースルーパングにしてふんわりと内側に巻いた髪型に真っ赤な口紅、そして長い睫毛を大きくカールさせたイケてる子になっていたなんて。しかも高いヒールを履いているせいで美衣子よりも目線は高く、何から何まで美衣子の中に抱いていた茉那のイメージとは変わっていた。
後ろから怯えるようについてくる茉那の姿はなく、どこからどうみても自信満々なカッコいい大人の女性だった。
あんな茉那の姿を見てしまったら、どうしても今の自分と対比してしまい、気落ちしてしまう。美衣子は手入れされていない、自身のごわごわしたぼさぼさの髪の毛を触って大きなため息をついた。
部屋の中にはつけっぱなしになっている動画投稿サイトが自動再生によりまた別の茉那のメイク動画を流す音が聞こえていた。高校時代のおどおどした茉那からは信じられないようなはきはきとした楽しそうな、少し高めに作っている声が聞こえてくる。
やっぱり魔法みたいに別人でカッコよくて、初見で茉那と理解するなんてとてもじゃないけどできなかった。今の茉那はとても綺麗になっていて、自分に自信もあって、たくさんの人に自分の好きを発信できているから、自堕落な生活をしてしまっている今の美衣子とは別世界の子みたいに見えてしまい、もうこのまま会わない方がいい気がしてしまう。
でも、その一方で自分に自信を持てている茉那に会ってみたい気持ちがあった。会うべきか、会わないべきか、考えるよりも先にスマホを触る指は動いていた。名刺に書かれていたSNSのアカウントにメッセージを送る。
『茉那、今日は久しぶりに会えて嬉しかったわ。また会わない?』
茉那に送ったメッセージは、30秒ほどで返信が来た。
『わたしが誰かってことすらわからなかったのに、よくそんなこと言えるね?』
返って来たスマホのメッセージを見ていた美衣子の表情が硬直した。
(茉那……?)
明らかに敵意の感情。高校時代の優しくて、穏やかだった茉那からは信じられなかった。
『だって、あれだけ見た目が変わってたらわからないわよ。茉那から自信が満ち溢れてて嬉しいわ。素敵になった茉那にまた会いたいのよ』
『随分と上から目線なんだね。わたしは会いたくない』
『そんなに怒らないでよ。気づかなかったのは謝るわ。だから会いましょうよ』
『怒ってないけど』
『怒ってないなら会ってもいいでしょ?』
少し時間を置いてから茉那から返事が来る。
『わかった、会ってあげる。来週の日曜日の14時からなら空いてるからそこで会おうよ。わたしは美衣子ちゃんと違って忙しいから自由な時間なんてほとんどないから、融通は利かせてあげられないよ。その時間に無理ならもう二度と会わない』
「ちょっと、どういうことよ!」
と画面を見ながらひとりで呟いてしまった。
時間指定をしておいて、そこ以外会わないなんてあまりにも傲慢ではないだろうか。昔の茉那はそんな子じゃなくて、もっと謙虚だったのに……。そう思いながらも、美衣子はバイト先に電話をかけていた。
「すいません、急で申し訳ないんですけど、日曜日のシフト変えてもらってもいいですか?」
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