第29話 再再会①
昨日のメッセージのやり取りから察するに、茉那はもしかしたら今忙しくて不機嫌にでもなっているのかもしれない。なので、美衣子はできるだけ機嫌を損ねないようにしようと思い、早めに待ち合わせ場所に向かっていた。
14時からの待ち合わせだけど、指定されたカフェに着いた時には、まだ時間は13時半を回ったところだった。アンティークで少し古い雰囲気を漂わせているけれど、店全体に掃除が行き届いていて清潔感のあるお店。
昔ながらの雰囲気が漂うお店だけど、美衣子とほとんど同じ位の年齢の女性が一人で回しているようだった。
席は美衣子が座っている2人掛けの机が1つと、カウンター席が3つあるだけ。今はお昼時だと言うのに美衣子しかお客さんはいないし、あまり流行っている様子はない。メニューもコーヒー、アイスコーヒー、紅茶、ナポリタン、ピラフとシンプルなものが5種類あるだけだから、一人でも充分お店を切り盛りできるということなのだろうか。
「ご注文は茉那ちゃんが来てからのほうがいいですか?」
席についた美衣子に、店員さんが落ち着いた安心感のある声で話しかける。ショートカットで笑顔が素敵な人だと美衣子は感じた。
「そうしてください」
美衣子が形式的に答える。茉那と待ち合わせしていることをどうして知っているのだろうかという違和感には、今の緊張している美衣子が気付くことはなかった。
とりあえず待ち合わせの時間になるまで暇なので、いつものようにスマホのアプリを起動した。
今はイベントの真っ只中。推しのイケメンキャラのリオン様は出てこないからスルーしてもよかったのだけど、もはや生活の大部分を占めることになったスマホゲームを簡単にやめることはできない。それに、今回のイベントのキャラクターは推しではないもののイケメンには変わりないし、ぜひとも取っておきたいところであった。
しばらくの間、美衣子が必死に画面に向かって指を押さえつけているときに突然茉那の声が聞こえた。
「呆れた。目の前に待ち合わせている相手が来てるっていうのに、画面しか見てないんだね」
立ったままの茉那が冷たい視線で美衣子のことを見下ろしていた。気づけばすでに14時を回っていたみたいだ。
「たしかに化粧品メーカーさんとのコラボ動画の打ち合わせで時間ぎりぎりになったわたしも悪いけど、それにしても3分くらいここで立ってたのに、まったく気づかないなんて、この間のこともそうだけど、本当にわたしに興味ないんだね」
失望したような視線を交えさせながら、茉那が大きなため息をつく。
いや、そういうわけじゃ……、と美衣子が言い訳をしようとしていたところに茉那が感情のこもっていない声で続ける。
「まあ、なんでもいいや。で、前はわたしのこと忘れてたのにまた会いたいってどういう心変わりかな?」
「心変わりも何もあなたが茉那だってわかったから会いたくなったのよ」
「わたしの動画投稿が順調だからサインでも貰って置こうってこと? わたしが高校の時と同じようにパッとしない暗い見た目だったら会わなかったでしょ?」
「そういう意味じゃないわよ。ただ、茉那に会いたくなっただけ。茉那がどんな状態でもわたしは会いたかったわよ」
むしろ、有名になっていない、昔のままの地味な見た目のほうが会いやすかったくらいなのにと思いながら、美衣子が答えたけど、茉那は相変わらずムッとしたままだった。
「それは久しぶりの再会でわたしが誰かすぐに気づけた人のセリフだと思うよ?」
ずっと言葉がとげとげしい。高校時代の茉那はもっと穏やかで奥ゆかしい話し方だったのに、と変化に寂しく思ってしまう。
「ああ、そうだ。わたしもう後10分くらいしたら行かないといけないから、何か用事があるなら早くしてね」
「用事は特にないけど、せっかく再会できたのに慌ただしくない?」
「わたしは美衣子ちゃんみたいに暇じゃないから」
「暇じゃないからって……」
(確かに暇なのは否めないけど、そんな言い方はないでしょ……)
美衣子の方もムッとしつつも、そのムッとした感情を表に出すと、そのまま茉那が帰ってしまいそうで伝えることはできなかった。
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