第23話 テスト勉強どころじゃない②
「ねえ、美衣子ちゃんってわたしと一緒にいるの嫌だったりしないよね……?」
「何言ってるのよ。嫌だったら一緒にテスト勉強なんてしないし、そもそも今日はわたしの方から誘ったんだから」
「でも、わたしのせいで美衣子ちゃんは灯里ちゃんと喧嘩してるんだよね……? わたしが美衣子ちゃんのこと好きにならなければこんなことにはならなかったのかな……」
茉那が不安そうに尋ねてくるから美衣子はゆっくりと茉那の頭を撫でた。新雪みたいな心地よい触り心地。特別なお手入れはしてなさそうなのに、サラサラとした触り心地だから、元々柔らかい髪質なのかもしれない。
「少なくとも、わたしは茉那と仲良くできて良かったと思ってるわよ。それに、茉那のせいじゃなくて、茉那に意地悪する灯里が悪いんだから、茉那は何も気にしなくていいのよ」
「ごめんね、美衣子ちゃん……。わたしが近づかなければ灯里ちゃんと美衣子ちゃんは喧嘩なんてしなかったのに……」
「やめてよ、茉那。わたしがあなたとも仲良くしたいだけなんだから」
美衣子は茉那の身体をそっと抱き寄せた。制服越しだけど、茉那は温かくて、柔らかかった。まるでウサギやネコを抱いているみたいな気分になる。
「ごめんね、美衣子ちゃん……」
何度も謝ってくる茉那の身体を美衣子はより強く抱きしめた。
茉那は何も悪くない。これは意地を張り続けている美衣子と灯里の問題なのだ。それは美衣子もよくわかっている。
「だから謝らないでって。灯里のことは茉那のせいじゃないんだから」
「違うの、そうじゃなくて……、いや、それもあるけど、違うの! 本当は灯里ちゃんの立場になって考えたらこんなこと思っちゃダメなんだろうけど、わたし今すっごい嬉しい……。美衣子ちゃん甘い匂いがする……。こんなときにそんなこと考えて、ごめんね……」
茉那はやっぱり小動物みたいで可愛いな、と美衣子は思った。ゆっくり頭を撫でていると、今度は茉那が美衣子の胸に頭を埋めたまま、ギュッと美衣子の後ろに手を回して抱き着いてきた。
「美衣子ちゃん、大好き……」
その大好きの意味はよく分かっている。美衣子はどうやって答えようか少し悩んでからゆっくりと答える。
「わたしも、茉那のことは大切な友達だと思ってるわ。大好きよ……」
心の底からの愛情表現に、茉那が求めている言葉で返せないのは申し訳なかった。
「……うん、ありがとう」
茉那の眼から流れ落ちた小さな涙の粒は、すぐに美衣子の制服に吸い込まれてしまった。
冷たかった部屋はいつの間にか随分と暖かくなっている。
結局、その日は2人ともテスト勉強なんて手につかなかった。
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