第24話 変身①

茉那の家でテスト勉強をしたおかげもあり、期末テストは無事に終えることができた。春休みに補習が入ることも無かったおかげで、美衣子は気分よく終業式の放課後を迎えていた。


今日も茉那と一緒に帰ろうと思っていると、美衣子と違って茉那はどこか寂しそうな顔をしている。


「どうしたのよ、明日から春休みなのに、なんだか浮かない顔してるけど?」


「えっ……。そんなに顔に出てたかな……」


茉那は否定せずに、ぼんやりと美衣子のことを見つめていた。


「何か心配なことでもあるの?」


「心配なことと言うより、3年生になったらクラス替えがあるから、美衣子ちゃんと違うクラスになっちゃうかもしれないって思ったら寂しくなっちゃって」


不安そうに見つめてくる茉那の頭を、美衣子がそっと撫でた。


「今日はもうちょっと学校に残ろっか」


美衣子の言葉を聞いて、茉那は小さく頷いた。他のクラスメイトの子たちが部活に行ったり、すでに帰っていたりしているから、2人だけになっている教室で、それぞれ適当に近くの席に座った。


少し落ち着いた茉那の顔を美衣子がゆっくりと見つめてみると、改めて透明感のある可愛らしい顔をしていることがよくわかる。素顔は前髪やメガネで隠れているから、遠くからでは気付きづらい。だから、茉那が可愛らしいことを知っているのは美衣子の特権だ。


とはいえ、それを全く生かそうとしていない茉那はやっぱり少し勿体ない気がする。


美衣子は黙って茉那の前髪を上げて、メガネも外してしまった。


「美衣子ちゃん……?」


困ったような声を出す茉那を気にせず、美衣子は顔を近づけて、一人納得する。


(うん、やっぱり試してみたくなるわね)


クリスマスの時は断られてしまったけど、改めて、茉那のもっと可愛らしい姿を見てみたい。


茉那の素顔に魅入られた美衣子がいつのまにか呼吸が触れてしまうくらい顔を近づけてしまっていたので、茉那がほんの少しだけ後ろに下がった。


「美衣子ちゃん、近いよ……」


「ちょっと待ってね」


前に茉那に貰ったウサギのキャラクターの前髪クリップをカバンから取り出して、茉那の前髪に付ける。そして、メイクポーチからファンデーションを取り出し、茉那の顔に塗ってみた。


「え、何するの!?」


「じっとしてて」


美衣子が真剣な表情で伝えると、茉那は美衣子に言われた通り動きを止めて黙り込む。黙ってはいるけど、その表情からかなり緊張しているのが伝わってくる。


美衣子の持っているものがメイクポーチなのを見て何をするのか察したのか、諦めたように茉那が目を瞑って大人しくなったので、美衣子は淡々と作業を続けていく。


簡単にアイメイクをして、チークを塗る。いつもしているメイクの手順よりもずっと簡易でシンプルだし、高校生らしいまったく目立たないナチュラルメイクだから、パッと見ではあまり変わらないかもしれない。それでも、近くで見ると、茉那は充分に垢抜けて、さらに可愛らしくなったのがわかる。


「最後は……」


美衣子がメイクポーチからリップを取り出した。


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