第21話 灯里とのクリスマス②

「灯里はいつからうちの前で待ってたのよ……?」


「学校終わってからまっすぐ来たわ。わたしがここに着くのとちょうど入れ違いで、美衣子が楽しそうにプレゼントっぽいものを持ってあいつの家に向かって行く後ろ姿も見えたわね」


「じゃあ3時間以上もこの寒空の下?」


「ええ」


何事もなく灯里が頷いたのをみて、本当は狂気とか怖さを感じなければならなかったのかもしれない。だけど、美衣子が真っ先に感じたのは嬉しいという感情だった。


茉那に意地悪をしているところを除けば、この親友のことが本当に大好きなのだと美衣子は改めて感じた。


「ごめんね、灯里」


「許さないわ……」


寂しそうに微笑む灯里にもう一度美衣子が謝る。


「ごめん灯里……って!?」


灯里が抱き着いたまま、ふらりと体の力を抜いたみたいに、美衣子の唇に自身の唇を重ねた。相変わらずの柔らかい感触が懐かしくはなったけど、ここは外。しかも美衣子の家の前である。慌てて灯里を自分の身体から引き離した。


「ちょっと、ここは外よ!」


「外じゃなければいいの?」


「それは……」


美衣子は無意識に自分の唇を触りながら答えを探っていた。正直なところ、灯里の唇の温かさに触れるのは好きだった。


だけど、今は一応距離を置いている状態ではある。答えに困っていると、灯里が口を開いた。


「まあ、いいわ。今はわたしたち絶交してるものね」


「絶交ってほど重いつもりはないけど」


「わたしはそのくらい重いものだと思ってるけど? 今のわたしには美衣子しか友達がいないのに、その美衣子に距離を置かれちゃったのだから。わたしたちはお互いに、お互いしかいないものだと思っていたのに、それなのに美衣子は裏切ったんだもの」


「裏切ったわけじゃなくて、わたしは茉那とも仲良くしたいだけよ」


「だから、それが裏切りなのよ……!」


灯里が大きな声を出したので、思わず美衣子は黙ってしまう。どちらも喋らなくなり、ただ見つめ合うだけの時間が過ぎていく。


冬の冷たい風が2人の間を吹き抜けていた。


「帰るわね。大きい声を出してごめんなさい」


ゆっくりと背中を向けた灯里に、美衣子がねえ、と呼び止めた。


「何?」


足を止めて、顔だけ美衣子の方にむける。灯里の綺麗に手入れされた長い黒髪が揺れる。


「やっぱり茉那とは仲良くしてくれないの?」


「それ、わざわざ答えないといけない質問かしら?」


「……いや、答えなくていいわ」


再び歩き出した灯里の小さくなっていく背中を美衣子はぼんやりとみつめるのだった。

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