第19話 茉那とのクリスマス③
その後は茉那とのクリスマスパーティーは無難に進んで行った。楽しかったけど、昨年灯里と過ごしたクリスマスに比べると少し刺激が足りないと思ってしまったのは茉那には内緒である。
「じゃあね、美衣子ちゃん。今日は凄く楽しかったよ」
玄関先まで送ってくれた茉那が名残惜しそうに言う。そんなに名残惜しそうに言われると、なんだかこのまま帰るのももったいない気がしてきたので、帰り際にせっかくだから前から気になっていたことを確認してみた。
「ねえ、茉那。メガネ外して」
「え? いいけど……」
一瞬怪訝そうに美衣子の方を見て首を傾げたけど、すぐに美衣子の言う通りメガネをゆっくりと外した。
「そのままジッとしててね」
「……わかった」
言われた通り茉那はじっとしている。
玄関の段差のおかげで、一段美衣子が低いところにいる。背丈がほとんど同じ位になっているか、いつもよりも顔が確認しやすい。美衣子は人差し指をそっと茉那のおでこに当てた。
「美衣子ちゃん?」
美衣子と茉那の顔が吐息が触れるくらい近くなったから、茉那は恥ずかしくて思わず目を閉じた。
そんな茉那のことを気にせず、美衣子は作業を続ける。そのまま親指と人差し指で挟んだ茉那の前髪をそっと持ち上げた。
「目、開けて頂戴」
「でも距離が近くて恥ずかしいよ……」
「いいから」
茉那が困惑しながらゆっくりと目を開いた。茉那は小動物みたいに可愛らしい瞳を丸くして、至近距離で美衣子と目を合わせる。美衣子は今まで前髪に隠れてあまりしっかり見ることのできなかった茉那の丸くて大きな瞳を見つめて頷いた。
「やっぱり茉那って可愛いわよね」
「美衣子ちゃん?」
茉那が不思議そうに美衣子の顔を見るから、慌てて付け足した。美衣子に片思い中の茉那を中途半端に期待させてしまうのは申し訳ない。
「あ、変な意味じゃないわよ。男子とかにあんまりモテてないのが不思議だなって思っただけ」
「ありがとう、美衣子ちゃん。でもわたしは可愛くなんてないよ。男の子から告白されたことなんてないし、そもそも告白どころか高校入ってからほとんど友達もいないし……」
寂しそうに俯く茉那はきっと大人しくて真面目だから、周りの子も声をかけにくいのだと思う。実際、茉那はクラスの子たちから嫌われているというわけではない。
本人は友達が少ないことを気にしているみたいだけど、何かのきっかけで友達なんてすぐにできてしまうと思う。まあ、茉那が人気者になったら美衣子としては少し寂しくもあるけど、それよりも茉那に可愛らしくメイクをしてみたいという気持ちが強かった。
もし、周りから受け入れられないことが茉那の自信の無さに繋がっているのならあまりにももったいない。きっとほんの少しだけ雰囲気を明るしてて、打ち解けやすそうな見た目にするだけで、茉那は周りから受け入れられてもらえるだろう。
「ねえ、今度メイクしても良い?」
「え?」
「わたしが茉那のことを誰が見ても可愛いって思えるようにしてあげるわ」
「いい、いいよ。大丈夫! わたしはこれで良いから!」
「でも勿体ないわよ。絶対可愛くなると思うのに」
「あんまり変なことして調子に乗ってると思われたり、先生に怒られたら嫌だし、やめとくね」
「うーん、どうしても嫌?」
「えっと……、今は一旦やめておきたいなって感じかな……」
茉那が困ったように笑う。これ以上の無理強いはできなさそうだから、一旦諦める。
でも、また機会があったらしてあげようと思いながら、美衣子は茉那の家を後にするのだった。
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