第16話 無駄な努力③
「ねえ、それって美衣子はわたしよりもこいつを取るって認めたってこと?」
灯里が思いっきり、美衣子の後ろにいる茉那のことを指差しながら聞く。
「だから、どっちを取るとかじゃなくて――」
「選んでよ! 今すぐ選んで! わたしとこいつどっちを取るのよ?」
「灯里も茉那も、どっちもわたしの友達だから選べないって……」
「だから選んで――」
灯里は美衣子の肩に両手を乗せて、顔を近づけて尋ねた。美衣子が何も答えないでいると、代わりに美衣子の背中側から小さな声が聞こえてくる。
「もういいよ……」
興奮気味の灯里を遮って、茉那が間に入ってくる。灯里が喧嘩中のネコみたいに体全体に力を入れながら、茉那を睨みつける。その様子をできるだけ見ないようにしながら、茉那が涙を堪えながら答えていた。
「いいよ、もう……。元々わたしが2人の間に入っちゃったのがまずかったんだし。わたしが美衣子ちゃんから離れたらいいんでしょ?」
茉那が震えた声で言っているのを聞いて、灯里は一転して満足げに頷いた。
「やっとわかったのね。あなたが美衣子に近づかないのなら、わたしも何もしないわ」
茉那が黙って頷いた。
「さ、美衣子行きましょ」
何事も無かったかのように美衣子の手を握って、そのまま茉那を置いて行こうとしたからさすがに美衣子は止めた。
「行けるわけないでしょ!」
「美衣子……?」
「灯里、あんた最近ちょっとおかしいわよ?」
「おかしいって、美衣子が変な子と仲良くしてるから……」
「茉那は変な子じゃないわ。わたしの大事な友達なの」
「大事な友達って、わたしとどっちが――」
「だから、比べられるもんじゃないって何度も言ってるでしょ!」
1年生の頃から仲の良い灯里は間違いなく特別な友達ではある。でも、だからこそ茉那のことをぞんざいに扱うような態度を取り続けるのはショックだった。
「ごめん、灯里。しばらくわたしたち距離を置きましょう」
「美衣子、何言ってるの?」
納得いかなさそうに綺麗に整えられた真っ黒で長いストレートヘアを揺らしながら首を傾げている灯里に背を向けて、美衣子は茉那の手を取った。
「行こ、茉那」
「え……」
茉那はチラチラと一人残された灯里の方を見ていたけど、美衣子は見なかった。悲しそうな灯里をずっと見ていると、距離を置くという判断に後悔してしまうかもしれないから。それにきっと、今灯里は美衣子に見られたくないような顔をしているに違いない。
後ろから、灯里が鼻を啜る音が聞こえてきて、足を止めそうになってしまったけど、美衣子は茉那の手を引っ張っていつもよりも早足で前に進む。心配そうに何度も後ろを振り返りながら歩く茉那の歩幅は小さく、かなり遅い。傍から見ていると、駄々をこねる子どもを連れて帰るお母さんのようになっているように思えた。
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