第15話 無駄な努力②
茉那が何も言えずに、叩かれた頬を抑えながら、ただ驚いて目を見開いたまま灯里の方を見ていた。
「ねえ、何してたかって聞いてるのよ! 美衣子は昨日古典の宿題をするからって言ってたけど? どういうことかしら?」
「ぐ、偶然駅前で会って……」
震えた声の茉那にさらに灯里が追い打ちをかけた。
「一人で課題をやるって言っていた美衣子がなんで家の逆方向にある駅の方に向かったのかしら?」
「カ、カフェの方が集中できるから行ったとかじゃないのかな……」
詰問の恐怖で今にも涙腺が緩んでしまいそうなのを茉那は必死に堪えていた。
「ふうん、美衣子はわたしと一緒にクリスマスパーティーをするために、悪い点を取らないように一人で勉強するって言ってたけど、あんたはカフェで話しかけてそれを邪魔しようとしたってわけ? わたしと美衣子、2人だけの楽しみな時間を台無しにしようとしてるってこと?」
灯里が茉那の肩の辺りを思い切り押したら、小柄で軽い茉那は簡単にブロック塀に体を打ち付けてしまい、バランスを崩してしゃがみ込む。
「灯里ちゃん、やめて……」
「ムカつく。美衣子がわたしに噓をついてまであんたみたいなのと一緒に会っていたなんて! 美衣子がわたしを裏切ったなんて……!」
態勢が整う前に灯里が通学カバンを力任せに茉那にぶつけた。茉那がその勢いで地面に尻餅をついてから、両手で頭を庇う。
「痛いよ、灯里ちゃん……。なんでそんなことするの……?」
「あんたがわたしの美衣子をたぶらかすからでしょ!」
茉那の喉から振り絞る弱弱しい声を聞いているときには、すでに美衣子は物陰から飛び出していた。もうこれ以上は傍観していられなかった。
「ちょっと、灯里! 本当にやめて!」
美衣子は慌てて飛び出して、怯える茉那を自身の身に隠すようにして両手を広げて立ちふさがった。美衣子にカバンが当たりかけて、灯里が慌てて力を抜くと、カバンはボトンと地面に落ちた。
「ねえ、美衣子。今のは本当なの? 偶然こいつと会って、カフェに行ったって言うのは? こいつが適当に作った嘘よね? 美衣子は行きたくないけど、無理やりカフェに行く羽目になったのよね?」
灯里は縋るように美衣子の眼を見つめたけれど、美衣子はしっかりと灯里の視線を受けながら、首を横に振った。
「違うわ。本当は初めから会う約束をしていたのよ。それに茉那と会うのはとっても楽しみにしてたし」
灯里のことだから、きっと初めから真実を知ったうえで美衣子に質問をしていたのだろうけど、まさかあっさり美衣子が認めるとは思わなかったのか、大きく目を見開いて硬直していた。
「じゃあ美衣子はわたしに嘘をついたって認めるわけ?」
「ええ、認めるわ。わたしは灯里に嘘をついた。昨日は初めから茉那と会うために灯里とは別行動をとっていたのよ」
きっぱりと目を逸らさずに言い切ると、灯里の顔がみるみる青ざめていった。
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