第14話 無駄な努力①
「あの、灯里ちゃん。今日の放課後2人で一緒に帰ってもらえないかな……?」
茉那が灯里の机の前に立って、震えた声で伝える。その様子を美衣子は灯里の背中側にある、教室後方のドアの近くで、灯里からはできるだけ見えないような場所から慎重に様子を伺っていた。
「どういうつもり? 意味わからないんだけど?」
「わたし、灯里ちゃんと仲良くなりたくて……」
震えた声で伝える茉那を見て、灯里は頬杖をついた状態でため息をついた。呆れたように見ているだけなのだろうけど、元々鋭い目つきをした灯里の眼はまるで茉那を威嚇しているようだった。
「知ってると思うけど、わたしはあなたのこと大っ嫌いなんだけど? それを踏まえてわたしを誘っているってことでいいのよね?」
「う、うん……」
元々か細い茉那の声がさらに弱くなった。だけど、茉那は今頑張っている。美衣子は心の中で必死に応援した。
灯里は座ったまま、ほんの一瞬だけ後ろを見て、美衣子の方をチラリと見た。
「そういうわけだから、美衣子は今日は先帰ってて。本当は美衣子と一緒に帰りたいけどなんか邪魔が入っちゃったから」
美衣子の方は見ていないけど、これは明確に美衣子に伝えている。
隠れているつもりだったけど、やっぱりこの距離だと勘の良い灯里にはバレちゃっていたようだ。でも、とりあえず茉那は灯里と一緒に帰る約束を上手く取り付けられたみたいで、美衣子はホッと息を吐いた。
放課後、美衣子は壁や電信柱に隠れながら帰宅していた。チラリと隙間から、前を行く茉那と灯里の姿を見てため息をついた。
(結局心配になって2人の後をつけてしまっている……)
ストーキングをしてしまっていることに少し罪悪感を持ちながらも2人にバレないように慎重に歩いた。
2人とも暫く無言で歩いていると、茉那が先に話題を振った。かなり緊張しているみたいで、声は若干震えている。頭一つ分くらい身長差があるから、茉那は見上げる形で話す。
「ねえ、灯里ちゃんってお休みの日は何してるの?」
「何もしてない」
灯里が茉那の方を全く見ようともせずに、質問にそっけなく答えるから、会話が途切れてしまった。
「あ、そうだ。灯里ちゃんって好きな食べ物とかあるの?」
「さあ、知らない」
「好きな教科は?」
「さあね」
茉那が口を開く度に会話を終わらせようとする灯里。なんだか見ていられなくなってきたけど、かといって今出て行ったら茉那の頑張りを無駄にしちゃうから、姿を現すわけにはいかなかった。
暫くすると、今度は灯里のほうから口を開いた。
「ねえ、そういえば……」
灯里の方から口を開いてくれたことに茉那がパッと表情を明るくしたけど、その次の言葉で一気に表情を暗くすることになってしまう。
「昨日駅前のカフェで何してたのかしら?」
ピタリと足を止めた灯里に合わせて、茉那も足を止めざるを得なくなった。さっきまでまったく顔を見ようともしなかった灯里が今は刺すような視線で茉那を見つめていた。
「カフェ……」
茉那はどう説明しようか困っていた。たぶん美衣子と2人で会ったことを伝えたらさらに機嫌が悪くなりそうだし、と悩んでいると、つぎの瞬間パチンという綺麗な音がカラリと乾いた空の下に響いた。
灯里が思いっきり茉那の頬に平手打ちをしたのだ。
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