第13話 逢瀬③

「違うのよ、茉那。その、どういったら良いかわからないけど……、ほら相性とか、そういうのあるでしょ? わたしは無理に苦手な子と仲良くする必要はないかなって思うだけよ」


「でも、わたし美衣子ちゃんのこと好きだから、やっぱり美衣子ちゃんと仲が良い灯里ちゃんとも仲良くなりたいなあ……」


茉那の気持ちもわからないでもないし、実際に2人が仲良くなってくれた方が美衣子としても助かるけど、灯里の態度を考えるに2人が仲良くなるなんて絶対に無理だろう。


せめて何か2人が共通して好きなものでもあれば何かの弾みで仲良くなることもあるのかもしれないけど、大人しい茉那と、美衣子と会うまではクラスの中心にいた優等生の灯里。2人の話題がどうすれば会うのか想像もつかなかった。


「ごめん茉那。正直わたしはあんまり協力したくないかも……」


茉那が露骨にしょんぼりとした表情をするので、美衣子も心が痛くなる。けど、これ以上関わっても灯里との仲が悪くなるだけだろうし……。


「茉那は別にわたしと一緒にいられたらいいんだったら、今日みたいにひっそりと会ったらいいんじゃないかしら? わたしも上手いこと灯里にバレないようにするし」


「でも、灯里ちゃんはわたしが美衣子ちゃんとこっそり会っているなんて知ったら多分すごく怒ると思うよ?」


「そこは、まあ気を付けてバレないようにしましょうよ。今日みたいにしたらバレないと思うから……」


「うん……」


納得できない様子で茉那はチーズケーキフラペチーノをストローを上下にしてかき混ぜている。


それから暫く静かになった後、また茉那が口を開く。


「ううん、やっぱりダメだよ! わたし灯里ちゃんと仲良くしたいよ」


その言葉を聞いて美衣子がため息をついたのを確認して、茉那が背筋を正した。


「美衣子ちゃんごめんね。わたしすっごいわがままなこと言っていると思うんだよね。でも、灯里ちゃんが納得しない状態で美衣子ちゃんと仲良くするのは難しいだろうし……。美衣子ちゃんには迷惑かけないようにわたし一人で頑張るから」


「あのね、茉那、あなたが一人でって言ってもきっと相手にしてもらえないわよ?」


美衣子の言葉を聞いて茉那が微笑んだ。


「ううん、きっと灯里ちゃんは仲良くしてくれるよ。美衣子ちゃんが良い子って言ってた子なんだから、本当は優しい人なんだと思うし」


「いや、たしかに前に言ったことはあるけど……。もう状況は変わっちゃってると言うか……」


美衣子が思っていた以上に灯里が茉那のことを拒んでいるから、今となっては、すくなくとも茉那に対しては灯里が良い子だとは思えなくなってしまっていた。


けれど美衣子の言葉を聞いても、茉那はゆっくり首を横に振った。どうやら意志は相当固いみたいだ。


ポジティブなのか根っからの良い子なのかわからないけど、あれだけ嫌な目に遭ってもまだ灯里と仲良くすることを諦めない様子。灯里があれだけ誰かを拒絶するなんてところ見たことがない美衣子からすれば絶対にやめた方がいいとは思うけど、茉那がやめないのなら仕方がない。可哀想だけど実際に灯里がどのくらい拒絶しているのか自分で確認してわかってもらうしかない。


「わかったわよ。好きにしたらいいわ。でも、わたしはやめた方がいいわとは言ったからね」


茉那はしっかりと頷いてから、一気にチーズケーキフラペチーノを飲み干した。


(まあ、灯里に嫌な事言われたらまたこうやってこっそり会って慰めてあげるか……)


そんなことを思いながら、美衣子も少しだけ残っていたチーズケーキフラペチーノを飲み切ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る