第12話 逢瀬②

駅前の喫茶チェーン店に着くと、お店の前で茉那は立っていた。


「先に中に入って待っておいてくれてよかったのに」


美衣子がそう言うと、茉那は困ったように笑った。


「わたし、頼み方がわからないから……。ラージとかグランデとかドッピオとか何がなんだかわからなくて……」


「ちょっとくらいはわかってそうな感じだけど……。まあいいわ。入りましょう」


レジに行き、注文時に勝手がわからずあたふたする茉那に、とりあえず期間限定のフラペチーノなら簡単で美味しいからとおすすめする。


チーズケーキフラペチーノを2人で注文して席につく。茉那は俯いて、机の下でもじもじと手を動かしていた。なんだか緊張しているようだから、美衣子は微笑みながら話し出す。


「ごめんね、灯里がなぜかわたしと茉那が仲良くするの嫌がってるみたいで、こんなこっそり会って逢瀬みたいになっちゃって」


「逢瀬……」


冗談のつもりで言ったのに、茉那が無意識のうちに両頬に手を当てて耳を赤くするから、思わず美衣子まで照れてしまいそうになり、慌てて笑う。


「冗談よ、冗談!」


美衣子の言葉を聞いても茉那が照れたまま全然表情を変えないので、少し変な空気になってしまい、気まずくなりそうだったので、急いで話題を変えた。


「でも、茉那の方から誘ってくれるなんて思わなかったわ。紙渡されたときにはびっくりしたけど……」


そう言って美衣子は苦笑する。今日は茉那が教室ですれ違いざまにこっそりと、押し付けるようにして折りたたんだ紙にメッセージを書いて誘って来たのだ。


『今日の放課後どこかで会えないかな? ムリだったら全然大丈夫だから』


そう書いてあった。


「いきなり黙って渡したら気持ち悪いよね。ごめんね。でも、普通に誘ったら灯里ちゃんに怒られちゃうかもしれないかなって思って……」


「別に驚いただけで気持ち悪くなんてないわよ。それに意図はしっかり伝わってるからわたしもその後で茉那にここの店で会おうって書いた紙渡したでしょ」


美衣子の言葉を聞いて、茉那が微笑みながら頷いた。


「でも、いったい何の用で呼び出したのよ?」


「用って言う程じゃないけど、なんで灯里ちゃんはわたしのこと凄く嫌ってるのかなって思っちゃって……。わたし、何か嫌なことしちゃったのかもしれないから、美衣子ちゃんなら何かわかるかなって思って。それに、わたしが灯里ちゃんと仲良くできたらもっと美衣子ちゃんと一緒にいられるし……」


「ああ、灯里のことね……」


呼び出された意味に納得したのと同時に、先日のことを思い出してため息をついた。美衣子としても灯里の茉那への態度には困っていた。灯里は大切な友達だけど、これからは茉那とも仲良くしていきたい。そのためには灯里の問題は解決しなければならない。


とはいえ、一緒に帰った日に灯里がかなり強く拒んでいたし、茉那がどれだけ仲良くしたいと思っても、灯里の方が多分受け入れないだろう。無駄なことをして灯里との仲を悪くしたくはないし、美衣子としては茉那には灯里と仲良くすることは諦めて欲しい。


「正直なところ、わたしは茉那と灯里はできるだけ顔を合わせないのが一番だと思うわ」


「えっ?」


思ったことをストレートに言ってしまうと、茉那の顔がみるみる不安に染まっていき、慌てて取り繕う。きっと美衣子が2人の仲を取り持ってくれるものだと思っていたのだろうけど、美衣子には2人を仲良くさせられる自信なんてまったくなかった。

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