第11話 逢瀬①

「ねえ、今日の放課後カラオケ行くわよね?」


終業式が近づきつつある初冬の帰り道、灯里が美衣子に尋ねた。


「ごめん、今日はちょっとムリかも……」


美衣子が断ったので、灯里が目を丸くして驚いた後、首を傾げた。今まで灯里からの誘いを断ったことなんてほとんどなかったから、今日も当然一緒に遊びに行くものだと思っていたのだろう。


そんな灯里の様子を見て、美衣子が慌ててめちゃくちゃな身振り手振りを交えながら付け足した。


「あ、ほら、わたし宿題溜まってるのよね。終業式の日までに提出の古典の問題集結構量あったじゃない? 冬休み前に出さないとダメって言われてたやつ。そんないきなり言われても困るわよねぇ」


「ふうん、まだ終業式までは1週間以上あるけど。いつもギリギリまで課題やらないのに珍しいのね」


灯里のが美衣子のことをジトっと見つめた。その視線はどこか怪しんでいるようにも思えてしまう。


「ま、まあ、わたしもたまには頑張るのよ。それで課題出さなくて終業式の日に学校に残ってやりなさいって言われたらクリスマスに会えなくなっちゃうでしょ? 今年も去年みたいに灯里と一緒にクリスマス過ごさないとだし」


今年の終業式の日はちょうどクリスマスの日。その前に土日を挟むのならもっ早く終業式にしてくれればいいのにと思うけど、学校の都合でそうはいかないらしい。


美衣子の言葉を聞いて灯里がなるほどね、と頷く。


納得してくれたところ悪いけど、本当は今日美衣子が灯里と遊べないのは勉強をするためではない。心の中で、美衣子は嘘をついてしまったことへの罪悪感を抱くけど、これは仕方がない。


だって今日、美衣子は茉那と一緒に遊ぶのだから。


先日の灯里との話を思い出すと、茉那に会うことがバレてしまってはマズい。


、頑張ってね」


お勉強の部分を強調するように言うのは、勉強以外の別の用事を連想されているのだろうかと考えてしまうのは考え過ぎだろうか。美衣子は勝手に疑心暗鬼になってしまっている自分の感情に困惑しながらも灯里と別れて約束していた場所へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る