第44話 あの子からのメッセージ②
「ごめんね、うっかり寝ちゃってたみたい」
茉那があどけないすっぴん顔に涎の後をつけながら申し訳なさそうに伝えてくる。
「ううん、わたしの方こそごめんなさい。ご飯できたのに、ちょっと考え事してて茉那のこと呼びに行くの遅くなっちゃってたわね」
勝手に部屋に入って灯里とのメッセージのやり取りを見てしまったことは当然黙っておく。
「なんだか良い匂いするね」
茉那が鼻をスンスンと鳴らして部屋に充満している温かいミネストローネスープの匂いを確かめていた。
「ミネストローネの匂いよ。良い匂いしてるんならよかったわ。味は保証できないけど」
美衣子が作り笑いをしながらそう言うと、茉那が大げさに首を横に振った。
「こんなにも良い匂いしてるんだから、大丈夫だよ。それに、美衣子ちゃんの作ってくれたミネストローネなんだから、絶対に美味しいよ!」
いつものように茉那は料理を褒めてくれる。普段なら美衣子は微笑みながらお礼を言うのに、今日はどこか上の空だったから、茉那が不安そうに美衣子のことを見つめていた。
茉那には悪いけど、美衣子の頭の中は先程覗いてしまったメッセージでいっぱいになったままだった。
「……美衣子ちゃん、具合でも悪いの?」
「えっと……。ごめん、ちょっと考え事してたのよ」
「考え事? 大丈夫? 何か心配なことがあるんだったら相談に乗るよ?」
茉那が心の底から心配そうな顔をしているけど、とてもじゃないけど考え事の理由は言えない。勝手にスマホをのぞき見して、勝手に茉那の交友関係に不安を抱いているなんて、絶対に言えない。
「大丈夫よ。今日の晩御飯何作ろうかなって思ってただけよ。このところ油っこい物ばっかり作っちゃってるから、今日は和食が良いかなって。油物ばっかり作ってたらせっかくのお手入れされてる茉那のお肌も台無しになっちゃうかもだし」
「美衣子ちゃん、献立考えるの大変だったら今日はわたしが作ろうか? いっつも美衣子ちゃんにばっかり作ってもらってても悪いし」
「何言ってるのよ。わたしはそれで茉那からお給料もらって生活してるんだから、そのくらいやらせてよ。だいたい茉那は明日も忙しいんだから、そんなことしている場合じゃないでしょ?」
つい明日の予定に言及してしまったから、うっかり明日の予定を知っていることがバレてしまうのではないのかとヒヤヒヤしたけど、茉那はとくに気づくことなく話を進める。
「大丈夫だよ、撮影も編集も今日中に全部終わらせちゃったから。でも、おかげで寝不足で机で寝ちゃったから、ちょっと体が痛いけどね」
茉那が苦笑した。
「そうだ、明日は用事があるから、朝ごはん無しでいいからね」
「用事って……」
「ん? どうかしたの?」
美衣子が小さな声で呟いたから茉那には聞こえていなかったのか、髪をかき上げながらミネストローネにフーフーと息を吹きかけている動きを止めて尋ねてきた。
美衣子ができるだけ不自然にならないように笑顔を作る。
「ううん、用事って、また打ち合わせとかかなと思って、毎日大変ねって思っただけよ」
「大丈夫だよ。わたしが好きでやってることなんだから」
茉那が熱々のミネストローネスープを含んだ口元を手で隠しながら楽しそうに答えた。
「それならよかったわ」
とりあえず食事が終わり、何事もなかったかのように後片付けを終わらせて部屋に戻ったけれど、その日は茉那が灯里と会うという話で頭がいっぱいになってしまっていた。
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