第39話 怪しい段ボール
「さて、今日も掃除やっちゃいましょっと!」
美衣子の使っている部屋に積まれている段ボールを少しずつ片付けていく。結構な量があるから大変そうだけど、毎日動画の撮影編集作業を頑張っている茉那に負けないように頑張ろうと思い、作業を進めていく。
食事担当という名目で茉那に住み込みで仕事をさせてもらっているけれど、それだけだと悪いので、美衣子はお手伝いさんの代わりとして家事全般をすることにしていた。
茉那の家は広いから忙しくて、毎日の仕事をこなしていると今まで一日を費やしていたアプリゲームに使う時間は無くなってきている。おかげでイベントもほとんど進められていない。でも、今の方が生き生きしているような気がすると美衣子は思う。
「ま、夜にちょっとくらいはリオン様を眺めて癒されてるんだけどねえ……」
美衣子は一人で苦笑した。なんでも器用にこなす背の高いイケメン男子のリオン様。どこか影のようなものも抱えているキャラクターで、基本は落ち着いているけれど、少しヤンデレな気もあって、他の男の子と親しくしようとすると機嫌を悪くする……。
リオン様の特徴を羅列すればするほどあの子に近づいてしまうのが嫌になってしまった。
それでも推しなのだから仕方がない。好きなものは好きなのだ。
とりあえず、美衣子が掃除を進めていくと箱の上部に小さな文字が書いてある段ボール箱が見つかった。
別に段ボールに文字が書いてあること自体は、珍しいことではないからそこまで違和感を持つ必要はない。
だけど、書いてある文字はさすがにスルー出来なかった。
ペンで小さく遠慮がちに『美衣子ちゃんボックス』と書かれていたのだから。
「なによ、これ……」
とりあえず開けてみると、中には美衣子が高校時代にプライベートで着ているものに近い服がいくつも出てきた。
「え、待って。なにこれ……」
中サイズの段ボールいっぱいに美衣子の着ていたものとサイズまで同じ服が何着も出てくる。
元々高校時代に美衣子に憧れてくれていた茉那なら美衣子とお揃いの服を買ったりして、美衣子の真似をすることもあり得なくはない。すっかりオシャレになった茉那が美衣子のセンスを認めて真似をしてくれているのなら悪いことではないのかも……。
一瞬そう思ったけど、小柄な茉那はきっとSサイズの服を着ている。観賞用で服を買うなんてことも考えづらいし、そもそも茉那と高校時代に制服以外で遊んだことなんて片手で数えられるほどしかない。
不審な点はそれだけじゃない。
「わたし、大学時代に茉那と会ったことなんて一度もないんだけど……」
段ボール箱の底から出てきたのは大学に入学したばかりの頃に着ていた服と同じもの。鍵垢でやっていたSNSアプリに遊びに行った写真をアップしたことは何度もあるけど、同じ大学の友達以外では灯里にしか教えていないから、茉那に見る手段はない。
当然、あれだけ仲の悪かった灯里と茉那が仲良く連絡を取り合っていたなんてことは考えられないし……。
美衣子は大きく深呼吸をした。
「……この箱は見なかったことにしておくわ」
茉那に聞いたら答えはわかるかもしれないけど、見なかったことにしておいた方がいい気がする。茉那とせっかくまた仲良くできているのに、勝手に人の秘密を見てしまったことがバレたらまた疎遠になってしまうかもしれない。世の中には知らない方が良いことだってあるのだ。
そういうわけで、せっかく途中まで整理した段ボール箱の山をもう一度元に戻していく。
「わたしは段ボール箱の整理なんてしていないし、触ってもいない。そういうことにしておきましょう……」
美衣子はそう自分に言い聞かせてダイニングの掃除をするために自室から出て行った。
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