第9話 嫌悪②
帰り道、灯里がムッとした調子で今日の学校でのことを怒っていた。
「ねえ、美衣子。今日のあれはどういうつもり? なんであんな地味な子に遊びに誘われて、しかもオッケーしようとしてたわけ? わたしショックで寝込んじゃいそうなんだけど!」
結局茉那と放課後会う約束はなくなったから、この日もいつものように美衣子は灯里と帰っていた。
「どういうつもりも何も、わたしがいつでも声をかけてって言ったから話しかけてくれただけよ。むしろ灯里こそどういうつもりだったの? わたしビックリしちゃったわ」
「ビックリしちゃったって……。まるでわたしが悪いみたいに言わないでよ!」
灯里は背中まで伸びた長い髪の毛が逆立ってしまいそうなくらい感情的になっている。普段灯里は美衣子の前では落ち着いた口調で話すのに、今日は珍しくかなり大きな声になっている。
悪いみたい、というよりも悪いんだけどと喉元まで出てきてしまう。今日の休み時間は、灯里が茉那に嫌がらせをしていたようにしか見えなかったし。
とはいえ、今ここでそれを伝えてもただ灯里の機嫌を悪くするだけだろうし、口にするのはやめておいた。
「わたしには灯里がなんでそんなに嫌っているのか分からないわ。茉那は良い子なのに」
「まだ親しくなってから1週間程しか経っていないのに、なにが分かるって言うの? わたしには美衣子とあいつが友達には見えないけど?」
「そうかしら?」
「ええ、完全に上下関係があるようにしか見えないわね。あいつのこと召使いか何かにするつもりかしら?」
多分、まだ恋愛感情が残っていて茉那が緊張しているせいで少し余所余所しくて、ぎこちないから、美衣子と上下関係があるみたいに見えてしまうのだろうと美衣子は思った。
「召使いって……。でも、そう見えるのならなおのこと距離を近づけたいわね」
美衣子がそう言うと、灯里が突然美衣子のことを抱きしめた。そして耳元で小さな声で囁く。
「そんなの嫌だわ……。美衣子にはわたしがいればいいでしょ?」
灯里の柔らかい吐息が美衣子の耳にかかり、なんだか恥ずかしくなる。
「何よ、その愛が重い子みたいなセリフ……」
「美衣子がわたしのことを変えてしまったのだから、その責任を取るべきなのよ」
元々クラスの中心にいた灯里がいつの間にか美衣子とばかり仲良くするようになったから、そういう意味では灯里のことを変えてしまった。美衣子と仲良くなったことで友達が減ったのだとしたら、たしかに罪悪感はある。
「灯里が選んだこととはいえ、結果的に友達が減っちゃったみたいだから、それはなんども謝ってるけど……。責任って言われても、どうすればいいのよ……」
「美衣子、勘違いしないで。わたしは美衣子のことを責めたいわけじゃないわ。嬉しかったのよ。わたしに纏わりついた良い子の皮を剥がしてくれたおかげで、昔よりもずっと自分の感情に素直になれているのよ」
灯里が美衣子を抱きしめる力がさらに強くなった。背が高くて運動神経の良い灯里の力は女子の中では結構強い。
「苦しいんだけど……」
そんな美衣子の声には気にせず、灯里は尚も美衣子の耳元で囁き続ける。
「ねえ、美衣子。わたしとずっと一緒にいて。ただそれだけでいい。それがわたしが美衣子に求める責任よ」
「ずっと一緒にいるじゃないの。でもそこに茉那も入れて3人で仲良くしたらいいじゃないって思うだけよ」
美衣子はゆっくりと灯里を体から引き離した。灯里のサラサラとした髪が頬をなぞっていき、こそばゆい。
改めて真正面から見た灯里はムッとした表情をしていて、口から出たのもやっぱり美衣子の求めていた言葉ではなかった……。
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