第5話 突然の告白

「あの、わたし美衣子ちゃんのことが好きなの……」


高校2年生の秋の文化祭終わりに、美衣子は窓から真っ赤な夕焼けが差し込んできている空き教室で告白された。


今のだらしない美衣子とは違ってオシャレに関心のあった当時の美衣子は、ふわりと巻いた髪の毛を風で揺らしながら、大きな瞳を見開き、その告白を聞いていた。


告白されること自体はそこまで珍しいことではないから、そんなに驚くこともないはずだけど、今回はいつもとは少し違う。


だって今回は告白してきた相手は男子ではなく、女子なのだから。そんなことはもちろん初めてのこと。


なんだろう、この状況は……。


美衣子はぼんやりと、非現実的な気分で目の前で頬を赤らめている月原茉那のことを見ていた。


大きな黒いメガネをした、おさげ髪で常に俯きがちの垢抜けない子。切りそろえられた前髪は目にかかるくらい長いから、身長差のせいで見下ろす形になっている美衣子からは、茉那の表情はほとんど読み取れなかった。


チークも何も塗っていないありのままの頬なのに、りんごみたいに真っ赤になっているということは、多分この好きはそういう意味なのだろう。


「念のために聞くけど、わたしのことが好きっていうのはどういう意味の好きなのかしら?」


そう聞くと、これ以上赤くならないと思われた頬がさらに赤らんだ。


「どういう意味って……。そのままの意味。わたし、美衣子ちゃんと恋人同士になりたいの」


スカートの裾を握る指も力が入りすぎて赤くなっていた。


どうして良いかわからず、ぼんやりと立ち尽くしていると、茉那は声を震わせながら続ける。


「あ、あの……。お返事は……?」


「返事も何も……。女子同士で付き合うとかはちょっと無理だし、そもそもわたしあなたと全然喋ったことないと思うけど? 悪いけど、いきなりそんなこと言われても困るわ」


「そう、だよね……」


女子同士で交際できないことか、今までほとんど話したことがないということ、どっちに納得してくれたのかはわからないけど、いずれにしても、わたしは茉那のことをフった。所在なく笑う茉那のことを放って先に帰るわけにもいかず、とりあえずじっと見守っていると、茉那が口を開く。


「じゃあ、せめてお友達にしてもらいたいんだけど……」


「クラスメイトなんだし別に友達くらいなら全然良いけど……」


そういうと、茉那がパッと明るい顔になる。


お友達にしてしてもらいたいと言っている時点で対等な友達関係にはならないだろうけど……。まあ、茉那が納得するのならそれで良いか。


これが美衣子と茉那が仲良くなり始めた瞬間であり、親友である灯里との仲に亀裂が入り始めるきっかけの瞬間であった。

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