第4話 あなたは誰?③
「なにこれ……?」
名刺に書かれているのは動画投稿サイトのURLとチャンネル名、そしてオシャレな子たちがやっている写真投稿SNSのアカウントのネームタグ。
動画のチャンネル名『マナのお手軽変身メイク』と書かれているけど、あの茉那が自分のメイク動画をあげているということなのだろうか。
そうなると、さっき茉那らしき女性に声をかけられたときに読者モデルとかインフルエンサーだろうかという印象を受けたけど、あながち間違いではなかったのかも。
とはいえ、あの内気な茉那が自発的にメイク動画や写真をアップするなんて、どういう風の吹き回しなのだろうか。
まさかと思うけど、本当にさっき会ったのは茉那じゃなくて、茉那に性格と仕草だけ似ている別人が美衣子を知り合いと勘違いして声をかけたとか?
そんなヘンテコなことを考えてしまったけど、机の上に投げ置かれた名刺をもう一度きちんと見ると、やっぱりそんなことはないようだ。
「月原茉那って書いてるってことは、やっぱり間違いなく茉那よね……」
美衣子は大きなため息をつきながら名刺の上に書かれた月原茉那の名前を人差し指でさすった。さすがに苗字も漢字も完全一致しているのに別人と疑うのは無理がある。
見た目こそすっかり変わっているけれど、美衣子の目の前に現れたのは月原茉那で間違いない。メイク動画をアップしているから、見た目に大きな変化があったことにも納得する。
認めたくないけど、あの綺麗な女性は茉那なのだ。
突然美衣子の目の前から去っていったと思えば、こんな形で再会して、向こうから声をかけてくるなんて……。
とりあえず、今の茉那のことをよく知るために、名刺に書かれている動画を再生してみる。
再生回数20万回を超えている動画には、先程対面した時よりもさらに綺麗に見える茉那のサムネイルがあったので、それをクリックする。
『はいどーもー、みんなの魔法使いマナでーす! 今日もみんなを舞踏会に連れていっちゃいますよー!』
動画の始まりの挨拶をしているスッピンの茉那は間違いなく美衣子のよく知っている月原茉那。薄めの顔で、目がクリクリとしていて、どこか困ったような、常に何かに怯えているリスみたいな印象の子。
高校時代には美衣子が一度してあげたとき以外には一度も学校にメイクなんてしてこなかったあの子が随分成長したものだと、少し嬉しい気分になる。
だけど、その気持ちは下にあるコメントによってすぐにかき消された。
"マナちゃんすっぴんでも可愛い!"
"可愛いが爆発してる!憧れます!"
"わたしもマナちゃんみたいな顔に生まれたかった"
コメントを目で追う。
優しいコメントばかりなのだから、本当は嬉しい気分になるはずなのに、なぜだかそうはならなかった。人気があることは良いことなのだろうけど、大人しくてほとんど友達のいなかった茉那しか知らなかったから、一気に寂しさが押し寄せてくる。
茉那が可愛いことを知っているのは、わたしだけで良かったのに。みんなが知らない茉那の可愛らしさに気づいていたのはわたしだけで良かったのに……。
そんなことを思いながら、気づけば美衣子は茉那との高校時代を思い返していた。
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