第3話 あなたは誰?②

日曜日のチェーン店のカフェにいるのはどこもかしこも楽しそうな人たちばかりだ。気心のしれた相手と楽しそうに談笑している人たちがたくさんいる。一人で来ているお客さんだって、それぞれ食事とか、読書とか、自分の好きなことと向き合っていて楽しそうだ。


2人用の席に座るわたしの正面にも楽しそうにガムシロップを開けている人物がいるけど、わたしは楽しいよりも不安な気持ちが大きかった。


「ねえ、あなたは本当にわたしの知り合いなの?」


本当は、あなたは茉那なの? とでも聞くのが正しいのだろうけど、それを聞く度胸はない。


「そう言われるとちょっと寂しいなぁ」


目の前の女性は、ふんわりと巻いた少しだけブラウンに染められた髪の毛をくるくると指先で弄びながら俯いて、コップの中のアイスカフェラテを見ている。


当時よりもオシャレになった髪型は、高校時代の美衣子とよく似ていた。


ほんの一瞬茉那は顔を上げて、美衣子の表情を確認してから、不安の表情の中に、無理やり作ったような笑みを浮かべる。


「ねえ、わたしが誰かわからないって、冗談だよね……?」


目の前、茉那と思われる女性は縋るような目で美衣子を見ていた。高校時代に何度も見た茉那の表情だ。


さすがにこれ以上存在を忘れたふりをするのは心苦しいので、茉那でしょ、と答えようとしたのに、それより先に茉那が諦めて立ち会がった。


「ごめんね、やっぱり答えなくてもいいよ。わたしと会ったことは忘れて」


机の上に投げ捨てるみたいに名刺とコーヒー代を置いて、そのまま俯きながら早足で去っていった。


投げ捨てた名刺と余分に置かれたお金、そしてせっかく久しぶりに出会えたのに、逃げるようにして去っていく茉那。同時に起きたことの情報量が、アルバイト以外で人に会うことの無い美衣子には多すぎた。


「ちょっと待って……」


ようやく美衣子が口を開いた時には、すでに茉那は大きなヒール音を店内に響かせ、ハンドバッグを揺らしながら店の扉を開けているところだった。


今から追いつこうにも、会計をしていたら多分間に合わない。それに、美衣子がすぐに名前を出さなかったことに本気でショックを受けている様子の茉那をなんて言って呼び止めればいいのか、美衣子にはわからなかった。


結局一人になってしまい、美衣子はガムシロップをたっぷり入れて甘くなったアイスコーヒーをストローで吸う。


大学時代に灯里と絶交するまでは何の抵抗もなく入れていたはずのカフェという場所はこんなにも居心地の悪い場所だっただろうか。


周りの楽しそうなお客さんたちを見ていたらどんどん気分が悪くなっていくから、美衣子は机の上に視線を戻す。先程茉那が置いて行った名刺を手に取ると、高校時代の内気な茉那からは信じられないような内容が書かれていた。

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