第6話 友達orストーカー①

「ねえ、なんか美衣子この頃月原さんにストーキングされてるわよね?」


少し冷たい秋の風が吹いている夕暮れ時の帰り道、横を歩く灯里が不愉快そうに呟いた。チラリと後ろを見ると、今日もまた3mほど後ろから茉那がついてきている。美衣子に話しかけるでもなく、ただ後ろからついてくる。


茉那は友達になりたいと言っていたけど、はたしてこれは茉那の望む友達の形なのだろうか。


「ストーキングって、もっとコソコソをやるもんだと思うけど?」


もう一度後ろを確認した後に灯里に言う。茉那はとくにこそこそした様子はなく、俯きながらではあるけど、隠れることなくついてきている。だから、これをストーカーとして扱うのは少し違う。


「じゃあ、あの人は一体何してるわけ?」


そう言って灯里とわたしが立ち止まると後ろからついてきていた茉那も同じように止まった。


「一定の距離をとったまま立ち止まったんだから充分ストーカーでしょ」


灯里の言葉を聞いてため息をつく。内気なせいで声をかけられないのに容赦なくストーカー認定されてしまうのは可哀想だし、ずっと一定の距離を取って歩かれ続けるのも嫌だから、後ろにいる茉那に向かって声をかけた。


「ねえ、茉那。そんな後ろからついてくるくらいなら一緒に帰りましょうよ」


「え、いいの?」


茉那が一歩を踏み出しこちらにやってこようとしたのとほとんど同時に、灯里が声をだした。


「いや、普通に嫌なんだけど。勝手についてこられて気持ち悪いし、こっち来ないでよ」


嬉しそうにこちらに向かおうとした茉那の足が止まった。


「灯里……?」


灯里がそんなことを言うなんて思っていなかったから、美衣子も困惑していた。元々社交的だった灯里なら、それほど親しくない茉那のことも、普通に受け入れてくれると思ったのに。


「だって、わたしこの人のこと全然知らないし、同じクラスってだけでほとんど喋ったことないし。ていうか、美衣子だってほとんど喋ったことないでしょ?」


特に小声にしているわけでもないから、当然茉那にも聞こえている。つい先ほどまで嬉しそうに口元を緩めていた茉那だったけど、今は下唇を噛んでいた。


「ちょっと、灯里!」


美衣子は灯里の目の前に立ち、2人の顔が向き合わないように立って、仲裁している体をとってみたけど、本当はこれ以上茉那の辛そうな顔を見たくなかったから、茉那に背を向けた。


「別にあの子と一緒に帰りたいなら一緒に帰れば良いけど、わたしは一緒には帰らないから先に帰るわ。あの人のせいでわたしの美衣子との大事な時間が無くなっちゃいそうでとっても残念だけど」


灯里が茉那のことを人差し指で示しながら言い終わるのとほとんど同時に、背中側から茉那がトボトボと力なく、すり足みたいに大きな音を立てながら帰っていく音が聞こえた。ショックだったからか、ペースはかなりゆっくりだけど、少しずつ足音は離れて行っていた。


結局茉那が去ってしまい、何事もなかったかのように灯里と2人で帰ることになった。


「よかったわ。無事に帰ってくれたみたいで」


「今のはさすがに可哀想だと思うわよ。灯里ってそんなに酷い子だっけ?」


「別に。わたしと美衣子のことストーキングされてて気味が悪かったから追い払っただけだけど? 美衣子のほうこそ、あんな変な子と仲良くしたがるなんておかしいと思うわ」


灯里は不機嫌そうに前方を見て、美衣子の方は見ようとしない。結局、灯里はその後ずっと不機嫌なままほとんど喋らなかった。美衣子の方もしょんぼりとした様子で帰っていった茉那のことが気になっていて、言葉を発することはなかった。


「とにかく、あのストーカーとは仲良くしないでね」


別れ際にそれだけ言って、灯里は帰っていった。

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