第8話 宣戦布告

 「普通、難民を受け入れたくらいで宣戦布告してくる奴があるか?」


 冬将軍が北に去り雪解けが始まった頃、北方辺境領タルヴィエ州に対してブークモールの使者が宣戦布告の書簡を送り付けて来たのだった。


 「王都に援軍は要請したけど、来ないでしょうね」


 カレリアはダルヴィエ州とブークモール国境の地図を見つめながら言った。


 「やっぱりそうだよなぁ……」


 援軍が望めぬことは、最初からレオンの想定範囲だった。

 何しろダルヴィエ州の別名は『王室罪人墓場ロイヤル・ボーンヤード』、つまりは腫れ物扱いの土地というわけだった。

 中央が厄介払いした人間の溜まり場、政治の表舞台から消し去りたい人間の送り先。

 加えて王国経済においてその影響力は皆無であり、ブークモール側はそれをわかった上でダルヴィエ州に限定して宣戦布告してきたのであった。


 「私の知る限りでは、あの国の正規軍は四万とかだったはずですよ」

 「うちの常備軍の十倍かぁ……白旗の準備出来てる?」

 「何言ってるんですか、十倍の戦力差くらいひっくり返しちゃって下さいよ」

 「じゃあその方法教えてくれよ」


 あまりの八方塞がりっぷりに二人してため息を吐くことしか出来なかった。

 さりとて王位継承という野望を実現するためには黙ってやられるわけにもいかず、レオンもカレリアと一緒に地図を眺めるのだった。


 「なぁ、この川ってまだ凍ってるか?」


 国境のすぐ手前、そこそこの流量の河川が地図には記されていた。


 「すぐに人を向かわせますねー」


 レオンとしてはその川の状況如何で戦術の幅が広がるので寝ないように珈琲をがぶ飲みしながら待つのだった。


◆❖◇◇❖◆


 「結果発表です、川は流れていました!!」


 その答えにレオンは顔を輝かせた。


 「そうと分かればすぐにでも行動を起こすぞ!!川の手前に馬防柵と逆茂木を設置しまくれ。出来れば川向うにも逆茂木は置いて欲しい」


 地形を活かしての防衛陣地構築、これがレオンの示した迎撃案だった。

 シンプルかつ定石のそれは、そうであるが故に強いのだ。

 

 「それと、騎兵部隊はブークモール領に浸透させておこう」


 第七王子という身分から王位継承を諦めていたレオンの趣味は戦訓分析だった。

 かつての戦争に纏わる書籍を読み漁り培ってきた知識はそれなりのもので、貴族としての嗜みはそっちのけにするほどだった。


 「いいんですか?野戦最強の兵種を防衛に使わなくて」


 驚いたように言うカレリアに向かってレオンはニヤリと自信を滲ませた笑顔を浮かべた。


 「何も最初からバカ真面目に戦う気はないさ。敵の物資補給を断ち早期決着を図ることに主眼を置いている」


 物資補給を絶たれれば大軍の無力化は容易い。

 

 「戦後処理で後ろ盾になってくれることを要求出来たら万々歳ですね!!」

 「まぁ、勝ったらの話だけどな」


 レオンがそう返すと、カレリアは何かを思いついたような顔をした。

 

 「その勝利を確実にする方法があります!!」

 

 そう言うとカレリアは、レオンに何やら耳打ちをした。

 

 「なるほど、あの駄メイドの実力を知りたいところだしな」

 

 リスキーだとは思いつつも、レオンはカレリアの案を採用したのだった―――――。

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辺境に追放された第七王子は影から王位継承権を支配する ふぃるめる @aterie3

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