第7話 主従逆転

 「実はですね……そのー寝坊をかましまして……朝食作ってないんですよ」


 寝所に入ってきたシノンは開口一番、申し訳なさそうに言った。


 「よかったぁ〜」


 シノンの報告にカレリアがホッと息をついた。


 「なんですかーッ!そのリアクションは!?」

 「いや、あんな食べれない朝食、生物実験と同じですよ?ね、殿下?」


 レオンは話を振られてはたと答えに困った。

 カレリアの言うことは事実なのだが、それを言ってしまうとシノンが可哀想な気がする。

 だが、伝えなければシノンの料理の腕は改善されないのでは?とも思うわけだ。


 「殿下、私の料理……そんなに酷いですか……?激毒を飲むのとどっちがマシですか?」


 潤んだ目で上目遣いにレオンを見るシノン。

 

 「シ、シノンの料理だろう……」


 毒薬のレシピはバッチリのシノンに間違っても料理より激毒の方がマシなどと言おうものなら、確実に逝ける薬を飲まされること間違いなし。


 「あ、殿下、日和ひよりましたねー?本当はどっちもあんまり変わらないとか思ってるくせにー」


 カレリアはそう言ってレオンを茶化す。

 するといつの間にかカレリアの後ろに回っていたシノンがその首を羽交い締めにした。

 

 「あっ、ちょっ!?ギブギブ!」

 「減らず口は誰かなー?」


 カレリアは自分を羽交い締めにするシノンをポンポンと叩いてギブアップの意思を伝えるが、ここぞとばかりにシノンは締め上げる。

 それからしばらして――――


 「ふぅ……満足しました」

 

 満足そうな顔でシノンがそう言うとカレリアは腕の中から解放された。


 「ば〜じぬがどおぼっだ(訳:は〜死ぬかと思った)」

 「というわけで殿下」


 シノンはレオンに向き直る。


 「私の代わりに朝食の準備、して貰えますか?」


 ニコッと笑ったその視線が怖いっ!そう思ったレオンはコクコクと頷くことしか出来ないのだった。


 「最近、殿下がどういうわけか料理の練習をしてること、私が知らないとでも思ってます?」

 「そ、そんな滅相もない……喜んで務めさせて頂きます!」

 

 及び腰のレオンは、知らぬ間に丁寧な口調になっていた。


 「よろしい!では頼むぞ!」


 ここぞとばかりに調子に乗るシノン、腕を組み偉そうな口調でここぞとばかりに主君風を吹かす。


 「お、おう……」


 いつの間にか主従逆転してね?と思ったレオンだがそれを咎めると、どうにかなりかねないので仕方なく受け入れるのだった。


◆❖◇◇❖◆


 「わぁ〜朝から皿の数が凄い!」


 シノンは大はしゃぎ、カレリアは誰よりも早く手をつけていた。


 「ひおおりおりへひえいえふ(訳:色とりどりで綺麗です)」

 「そうかそうか……おだてても何も出ないからな?」


 レオンが二人からの好評価に気を良くしてそう言うと


 「「料理だけでれば十分ですよ?」」

 

 二人して同じことを言った。


 「そうか……チ───(´-ω-`)───ン」


 それ以降、朝食は可能な限りレオンが作ることになるのだった。

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