第6話 ブークモールからの使者

 「殿下ーっ!起きてます?」

 

 レオンがもう寝ようかと体を寝台にもたげた頃、カレリアが寝室に入って来た。


 「今寝てる。明日にしてくれ」

 「いやいや、起きてるじゃないですか」

 「こんな夜更けにどうした?」

 「さっきブークモールから使者が来たんです。んで、その用件が用件なんでね、殿下に急いで伝えようと思ったんですよー」


 ブークモールからノルデンガルド王都ではなくタルヴィエ州都に向かった使者。

 レオンはそれだけでその用件に何となく察しがついた。


 「難民のことかぁ……」

 「使者の持ってきた書簡がこちらになりますねー。読み上げましょうか?」

 「眠いし自分で読む気しないから頼む」

 「はーい、読み聞かせしてあげまちゅねー」

 「馬鹿にしてんのか?」

 「はいでは読んでいきますよ。ブークモール王宮にお住まいのハッセル王よりお手紙頂きました。大変寒さの厳しい冬となってきましたね!タルヴィエ領主となったレオン殿はいかがお過ごしですかな?端的に用件を申し上げますと、さっさと我が国の民を返しやがれバカヤロー!人んとっから勝手に領民引き抜いてんじゃねぇよ!ってところですかねー」


 終始ふざけた口調と迫真の演技でカレリアは書簡を読み上げた。


 「なぁ、今読んだこと、何割が正しいんだ?」

 「だいたい合ってますよ?」

 「そうか……」

 「で、何て返書します?」

 「そうだなぁ……。返すかバーカ!ぐらいでいいんじゃないか?」

 「わかりました。書いときますねー!サラサラサラ、ほいできた!」

 「一応、目を通しても構わないか?」

 「どぞどぞー」


 カレリアがレオンに渡した返書用の大きな紙には達筆な字でデカデカと『返すかバーカバーカ!』と書かれていた。


 「本気で書くやつがあるか!?」

 「だって殿下が書けって仰ったじゃないですかぁ?」

 「いや、言葉の綾でな?それに沿った内容を書いてくれれば良かったんだ」

 

 こんなのを才媛ともてはやすうちの国は大丈夫なんだろうか……と深いため息をついたレオン。

 そして寝台から起き上がると自ら返書を書くことにした。

 そんな様子を見たカレリアは微笑んで言った。


 「こうでもしないと殿下は書いてくれないでしょう?」


 全てはカレリアのてのひらの上の出来事だった。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「結局なんて書いたんですか?」

 「一言しか書かなかった」

 「というと?」

 「当ててみろ」


 翌朝、起こしに来たカレリアはレオンに昨夜の返書の内容を尋ねた。


 「う〜ん……『バーカ!』ですか?」

 「どうしてそうなる……正解は『返しません』だ」

 「あんまり変わらないじゃないですか」

 「そうかもな」


 そう言って笑い合う二人。

 そこへいつものようにやってくる残念メイドのシノン。

 

 「あ〜っ!殿下とカレリアさんが同衾してるぅ〜ッ!」


 賑やかになるいつもの朝、でも今日はちょっぴり様子が違うようで―――――?

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