第5話 ゲテモノクッキー
「今日までの時点でブークモール難民の受入れ数は二百五十二名なんで、悪くない数値ですね」
週末の定例報告でレオンはカレリアからの報告を受けていた。
「受け入れ開始からたったの三週間なのに結構来てるのか」
「ブークモール国内で工作してますからねー。当たり前のことと言えば当たり前のことですよ」
「このままブークモールでの人口流出が続いてくれればいいがな」
そうすればブークモールの国力は削れるしタルヴィエ州の徴兵人口は増える、そんなことをレオンは夢想していた。
「ところがどっこい殿下、これがそう上手くいかないんですよぉ」
「問題でもあるのか?」
「もう大アリ!なんとですね、
「馬鹿なのか?」
レオンはため息ついて頭を抑えた。
「呼んだ?今、呼んだよね?」
ノックもなしに執務室に入って来たのは戦闘スキル極振りのメイド、シノンだ。
「馬鹿が来たよ馬鹿が……」
「タイミング噛み合いすぎですねー」
シノンの持ってきたものを見て尚いっそう深いため息をついた。
「ちょっとー、人の顔見るなりため息つくとか酷くないですか〜?」
「お前のその手に持ってるものなんだ?」
シノンの手には一見、食べれそうなクッキーがある。
しかしレオンは今日の朝も炭化したソーセージというテロに遭遇したばかり、見た目だけでそれが食べれるのかを判断するわけにはいかなかった。
「え?滋養満点のクッキーですよ?」
そんなに疑うならと、お皿に山盛りのクッキーの一番上の一つをシノンはパクリと口にした。
「ん〜!我ながら会心の出来映えですよ!」
至極美味しそうに食べるシノンを見ていたカレリアは、
「可食部位がありそうなんで食べますねー」
もはや可食部位があるだけマシという次元のシノンの料理に恐怖を感じたレオンは最近、料理の練習を始めていた。
「なんか変な黒いポツポツとかあるけど食えますね、コレ」
そう言いながら、カレリアは次々とクッキーを口に運ぶ。
「カレリアさんも食べてるし、殿下も、ね?」
クッキーのうち一つシノンは摘むとレオンの口元まで運んだ。
「はい、あ〜ん」
「一人で食える、子ども扱いするな」
「いいからいいから」
シノンの押しに負けて、レオンは渋々口を開いた。
その口にポイッと放り込まれる。
「ポリポリ……不味くはないな。珍しく食える」
「でしょでしょー?朝食よりは上出来ですから後は殿下達で食べちゃってください」
「あれより下があるのか……?」
それはきっと想像も絶する酷さなのだろうとレオンは顔を引きつらせた。
ともあれ、今は丁度ティータイムの時間、小腹の空いていたレオンはクッキーをもう一つ口元へと運んだ。
そこではたと気付く。
クッキーから何やら足のようなものが飛び出ているのだ。
思わずレオンは目を疑った。
そしてクッキーをもう一つ皿から取るとしげしげと見つめた。
そのクッキーには、今度は羽のようなものが見える。
「なぁ、シノン……なんか足とか羽みたいなのが入ってるんだが……?」
「だから滋養満点って言ったでしょう?」
二人の会話を聞いてカレリアもさすがにクッキーを口に運ぶのをやめた。
「お前……もしかしてこれ……虫を入れたのか……?」
「そうです!こっちに来る前に王都で買ってきた
「これは改善の余地がありすぎるな」
レオンが二つ目の興梠クッキーを口にすることはなかった。
「改善の余地ですかぁ……う〜ん、舌触りが良くなさそうな足と羽は次回から取り除きますね!」
「いや、改善の方向が違うっ!」
なんで普通にクッキー作らずに、興梠入りのゲテモノクッキーを作るんだよ……と、あまりの駄メイドぶりに頭を抱えた。
「嵐のような
連れてきたのはカレリア自身なのだが、カレリアはどこか他人事のように言った。
「ほかのことが壊滅的すぎて戦闘スキルに否が応でも期待してしまうな……」
「クマを素手で倒せるくらいには、やれますよ?」
「マジかよ……人は見かけによらず、だな」
「で、何の話をしてましたっけ?」
二人は興梠クッキーの衝撃にシノンが来る前に話していた内容をすっかり忘れていた。
「何だか大事な話だった気がするんだがなぁ……」
「まぁ、忘れる程度の話だったのでしょう」
「そうかもしれん」
すっかりブークモール国軍の国境地帯への駐留の話を忘れ去った二人だった。
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