第4話 受け入れ

 「おぉ……寒いぃぃっ」

 「さっさとお城に戻って暖炉でしっぽり温まりましょうよ殿下」

 「その言い方、なんか卑猥だからやめろ」

 「殿下が望むなら嫌々ですがしてあげてもいーですよ?」


 二人の主従は、数人の供回りを連れて国境警備隊の施設まで馬を飛ばしていた。

 飛ばしている、と言っても雪で馬足は乱れまくってるので速度は遅い。

 

 「あの建物がそうですね!」


 そう言ってカレリアが手袋をはめた手で指さした先にあるのは警備隊の拠点だった。

 途中の拠点で休みながら来たものの、手袋をはめている手もすっかり冷たい。


 「殿下ー!」


 警備兵の一人がレオン一向に気付いたのか手を振った。

 そして雪で転びそうになりながらも走り出す。


 「大変だから、出迎え不要!来なくてもいいよー!」

 「本当ですかぁッ!?」

 

 何しろ距離が離れているので、叫ぶような声でお互いに言葉を交わす。

 間延びした声での間抜けな会話が辺りに響いた。

 そして到着。

 馬の世話を供回りに任せるとレオンはカレリアと共に建物へと入った。


 「あったけぇ」

 「今だったら成仏出来そうです」


 格好は貴人のそれなのだが、全くもって貴人らしからぬ物言いに、中にいたブークモール難民達は耳を疑った。

 そんな様子を見かねた警備兵の一人が咳払いをすると


 「この方はノルデンガルド王国第七王子でこのタルヴィエ州領主のレオン・ドルエスト・シグザール様だ」

 

 ブークモールもノルデンガルドも公用語はイントネーションなどの差異はあれど大体同じだから警備兵の言った言葉は、難民達にも問題なく通じた。

 とりあえず偉い人みたいだから頭下げとこ、といった感じで難民達は頭を下げる。

 

 「早く城に戻りたいので、いきなりだが本題に入るぞ?お前達にタルヴィエ州への移住を許可する。取り急ぎ、家の用意をさせよう。そしてそれと引き換えに一つ頼みがある」


 レオンはそこまで言うと一旦言葉を切った。

 追い返されると思っていたのに移住を許可してくれるなんて!と難民達は目を輝かせているが問題はここからなのだ。


 「お前達には炭鉱で鉱夫をしてもらいたい。あ、待遇はもちろんブークモールよりはよっぽどマシだ。賃金も間違いなく高い」


 受け入れて貰えるか否かはフィフティフィフティと考えていたレオンは祈るような眼差しで難民達を見つめた。


 「格段の配慮に感謝致します。その話、ぜひ受けさせて頂きたい。お前達、異論はないよな?」


 座っていた難民達の中から一人の男が立ち上がるとそう言った。


 「これでようやくまともな暮らしができるッ」

 「ありがとうございます」

 「なんとお礼をしたらいいのか……」


 難民達は口々に喜びと感謝を口にした。


 「礼は、生活が軌道に乗ったらいくらでも聞くからそのときまで取っておけ」


 レオンがこそばゆさに頬をポリポリとかきながら言うその姿を熱い眼差しで見つめる少女がいた。

 レオンがその目線に気付くと微笑む。

 するとその少女は恥ずかしそうに顔背けた。

 

 「お、コラ!人様の顔を不躾に見るんじゃない」


 その少女の様子に気付いたのか、難民を代表してレオンと言葉を交わしていた男が少女を軽く叱りつけた。


 「うちの娘が失礼致しました」


 男は米つきバッタのようにレオンへと頭を下げた。


 「気にするほどのことじゃない。俺はさっさと城に戻って移住の話を進めなければならない。それでは失礼」


 難民の受け入れを決めたとなれば支度を早く整えなければ、とレオンはカレリアを連れて帰って行った。

 鉱山の労働力問題を解決できたその足取りは軽かった。

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