第3話 鉱山の労働力

 「――――という状況で御座いまして、人員さえ確保出来れば増産は可能です」

 「そうかぁ……」


 カレリアと経済を強くすることが先決と話し合った翌日、早速レオンは動き始めていた。

 レオンの対面にいるのは、行政官筆頭のクールベが連れてきてくれた炭鉱の責任者だった。


 「うちの領内で仕事に溢れている人間っているか?」

 

 レオンがクールベに訊くとクールベは首を横に振った。


 「いたとしてもその職に就きたがる民はいないでしょう」

 「やっぱそうだよな」


 想定通りの回答にレオンはため息をこぼす。

 炭鉱での仕事は、キツい、汚い、危険と三拍子揃っている上に賃金も安い。

 なり手が少ない職業だった。


 「隣国から拉致する訳にもいかないしなぁ……うーん」


 レオンの国際問題スレスレの発言を居合わせた全員は黙ってスルーする。

 

 「まぁ、現状を把握出来ただけ良しとしよう。クールベ、次は林業部門の責任者を呼んできてくれ」

 「かしこまりました」


 レオンは、鉄鉱石の増産については保留とし、残るタルヴィエ州の産業である林業に目を向けることにした。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「またお前らか!?」

 「帰れ帰れ!」


 北のオプヴァルデンアルプスと麓にある国境警備隊の施設では、丸腰で襤褸のような服の上に毛皮を纏った者達と警備兵とが対峙していた。


 「頼むからノルデンガルドに入れてくれぇ……。おねげぇしますだっ!」

 「もう戻りたくないんですっ!」

 「うちの主人、ここ二日何も食べてないので何か恵んでくださいっ」


 彼らは、北洋人ラプランと呼ばれる呼ばれるノルデンガルドの北の隣国ブークモール王国で迫害対処とされる人種であった。

 氷雪の国とまで言われるブークモールは、タルヴィエ州よりも気候が厳しい。

 そんな国において北洋人ラプランは、炭鉱での厳しい労働を強いられていた。

 既に何万という数の北洋人ラプランが炭鉱での労働で亡くなっているという話もあった。


 「なんだってこんな寒い時に来やがんだ!とりあえず中に入れ!」


 ブークモール難民達が可哀想に見えたのか警備兵達は、渋々警備所で暖を取らせたり食べ物を提供したりする。

 これが昨今のノルデンガルド=ブークモール国境における問題だった。

 ちなみに彼らはこの後、ブークモールへ強制送還されることになる。

 それでもノルデンガルドでの生活を夢に見て彼らは険しいオプヴァルデンの山を超えてくるのだった。


 「とりあえず、カレリア様の所へ馬を走らせておけ」


 国境警備隊とて鬼ではなかったが、不正入国を試みる他国の国民に対しては毅然とした態度を取らざるを得なかった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「殿下、労働力の搾取……ゲフンゲフン、調達先が見つかりましたよ〜」


 国境警備隊からの報告を受けたカレリアは、いつもなら問答無用で強制送還しろと命じるのだが今日は違った。

 その話をもってレオンの元へ来ていた。


 「本音がダダ漏れだな」

 「いやぁ……だって、労働力が無いって悩んでたらこんないい話が湧いて来たんですもん」

 「聞かせてくれ」

 「閣下はブークモール難民の話は知ってます?」

 

 カレリアが尋ねると


 「知らん」


 レオンは即答だった。

 それを聞いたカレリアは、それまでレオンと合わせていた目を泳がせそっぽを向いた。


 「おい、なんで目を泳がせるのだ?」

 「いやぁ室内を虫が飛んでいたので」

 「今、冬だぞ?」

 「あ……」


 そう、カレリアはレオンにブークモール難民の話を報告せず、勝手に処理していたことを思い出したのだ。

 

 「まぁ、知らないなら今回覚えていてください」


 あくまでシラを切るカレリアに


 「カレリアが報告忘れてたんだろ?」

 「ギクッ!?……うえへへぇ…」

 「笑って誤魔化しても無駄だ。で、ブークモール難民がどうしたんだ?」

 「ブークモール難民の正体は、ブークモールで迫害されている北洋人ラプランなんですよ。この冬に山を超えて不正入国を図る彼らを炭鉱での労働力に使えないかなーと思ったんで報告に来たんですよ」

 

 今のところ、ノルデンガルドでは北洋人ラプラン蔑視のような習慣はない。

 それならいっその事、受け入れてしまって労働力の確保及び人口の増加に繋げようというのがカレリアの狙いだった。


 「吟味するまでもないな。どんどん受け入れちゃってくれ。でも衣食住の面倒はしっかり見てやれよ?」

 

 レオンの答えにカレリアは嬉しそうな顔をして「了解ですー!」と敬礼した。

 もちろんこれが、後々問題を引き起こすことになるのだがそれはまた別の話。

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