第2話 まず必要なもの
「ときに殿下……もぐもぐ…このタルヴィエ州の動員可能兵数って……ごくっ……知ってまふー?」
気だるげな教育係は、干し肉を加えたまま編み物をするという奇妙な状態でレオンに問い掛けた。
「喋るか食うか編むか……どれかにしたらどうだ?」
「いやー時間が惜しいなぁって思ったんですよ。早くやること終わらせてダラダラしたいじゃないですか」
政治面においてはどこまでも優秀なカレリア、しかし他の面は割とだらしない。
「そうか……」
もはやレオンはそれ以上言及するのをやめた。
「それで動員可能兵数の話に戻りますが」
カレリアは、編み物の手を一旦止めると話を戻した。
「グランジマスを含めて人口は十三万人といったところか?五%以上の徴兵で財政破綻だからどんなに頑張っても六千程度か……一般的に常備軍が人口の三%程度だからざっと四千弱だな」
よどみなくレオンが答えるとカレリアは満足そうに頷いた。
「その通りです。王国の総人口は八百万ですから常備軍だけで二十四万人がいる計算になりますね」
「うむ、やっぱり王位継承は諦めよう!」
レオンは冗談なのか本気なのか、腕を組んでもっともらしく頷きながら言った。
「え〜、どうしてそうなっちゃうんですか?私を中央に戻してくださいよぉ!」
「おい、くっ付くなくっ付くな!」
カレリアはレオンに縋り付くようにしてそう言うと、レオンは頬を少し赤らめながら面倒くさそうに手で追っ払った。
「レオン様も年頃の男子、やっぱりこんな可愛い女の子から近寄られちゃうと照れちゃいますよねー?」
「自分で言ってるところが台無しだけどな?」
二人は
「つまり父上の退位を想定してこの冬のうちから動いておけと言いたいんだろ?」
「そういうことです。さすがお坊ちゃまは察しがよろしい」
「馬鹿にしとんのかワレェ」
何しろタルヴィエ州四千の兵だけでは、何の圧力にもならないし敵となり得る兵力は、その六十倍もいるのだから出来ることは今のうちからしておくべきなのだ。
「となるとまずは、領地の財政の安定を図るところからか」
「世の中は何事も金ですからね〜。なんてったって王都じゃ愛も金で買えるんですよ?」
「それは愛は愛でも性愛だろ」
「性が付こうが付くまいが愛は愛ですよ」
カレリアはそれが女性の口から出たことを疑いたくなるようなことをのたまった。
もちろん売春窟のことである。
「というわけで財政の安定化についてですが、まずは領内の産業を伸ばしましょう」
「この冬にか?」
「この冬にです」
仮にも王位継承に伴って内戦となるならば、戦争を耐え抜くだけの財力が必要になってくるわけだ。
そしてそんなものがこの北方辺境領にあるはずもなく……。
「そっかぁ……やるしかないかー。来世はお金持ちになりたいなぁ」
などと現実逃避をしながら取り組むこととなるのだった。
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