第20話 また別の彼女の話①

「優香さん、体大丈夫?ゆっくり歩こうね」



隼くんとホテルで初めてシてから5ヶ月。


私は今、隼くんと一緒に空港にいた。



「大丈夫よ。……ていうか、いつまでさん付けなの?早く呼び捨てにしてよ!」


「どうしてもまだ慣れなくて…敬語辞めるのだって、だいぶ頑張ったんだよ?」


「たしかに。3ヶ月はかかったもんねー」



私は隼くんと一緒に待合室の椅子に座り、少し膨らんできた私のお腹に優しく手を乗せる。



「この子が生まれてくるまでにはさすがに呼び捨てにしてもらわないとなあ…」






妊娠できない体質だと思っていた私は、なんと隼くんとの子供を授かることができた。


初めて報告したときは隼くんも驚いてたけど、私一人ででもいいからこの子を育てたいという覚悟を何度も話しているうちに、隼くんも一緒に育てたいと言ってくれるようになった。



隼くんは自分の子供ができたということが嬉しかったみたいだ。


昔から早く父親になりたいと思っていたらしく、その夢がこんなにも早く叶うとは予想外だったそうだ。


だけど、とても幸せそうにしてくれている。


「この子が生まれてくる頃には、もう優香さんのこと、ママって呼ばないとだよ」



そう言って優しく笑う隼くんを見て、私も幸せを感じる。




隼くんには当時付き合ってる彼女がいた。


だけど最終的には私を選んでくれた。



2人でそのまま幸せになれればいいけど、あのまま日本にいても年齢の事や事件のことを含めいろんな壁がありすぎる。



だから私達は、誰も知らない海外へ飛ぶことにした。



隼くんはまだ中学生。


普通のカップルみたいに、まだ若いけど2人で

頑張って子供を育てる覚悟はあります、なんてことは誰も聞いてくれない。


もちろん隼くんの家族にも反対されるだろう。



だけど隼くんは、家族も友達も元彼女も全部捨てて私とこの子だけを選んでくれた。


もちろんこの先も知らない土地でやっていくのだからかなりの覚悟が必要なのは分かってる。


だけど私は、この二人がいれば何でもできるような気がしている。



「……そろそろだね。行こうか」



隼くんが時計を見て私に優しく声かける。



2人の最小限の荷物は全部隼くんが持ってくれてる。



「その前にトイレに行ってもいいかな?」


私は立ち上がりながら、飛行機に乗る前にもう一度トイレに行こうとした。



「わかった。近くで待ってるね」




隼くんの言葉を聞いて私はトイレに入る。



妊娠すると、トイレが近くなって困る。


それに体が重くなったり少しだるくなったりして、トイレに行く頻度も上がるのに体力も無駄に使ってしまう。



妊娠する前よりも、どうしても時間がかかっちゃう。


けどまあ、飛行機の時間までには間に合うだろうし、隼くんもその辺分かってるから待っててくれるよね…




そう思っていつも通り済ませた。



手を洗ってトイレから出ると、さっきいたところに隼くんがいなかった。



「あれ?隼くんもトイレかな?」



そう思って少し待ってみたけど、まだ現れない。



「やばいな……もう時間ないよ…」



時計を見て焦った私は隼くんに電話をかけてみた。



だけど全く繋がらない…



「隼くん…?何かあった?」



急に心配と恐怖で焦り始める。



何度かけても電話に出ないし、どこを見渡しても見つからないから、とりあえずこの飛行機には間に合わなくても仕方ないと思い、私は急いで案内口に行き、アナウンスしてもらうことにした。



『〇〇からお越しの醍醐隼様。お連れ様が✕✕にてお待ちです……』




アナウンスの声が空港内に響き渡る。


何もなければ、さすがにすぐに来てくれるはずだ…




だけどそう思った私の前に現れたのは、さっきまでとは別人みたいな隼くんだったのである。

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