第12話 爽やか熱血教師の話④

隼と部室で話した日から3ヶ月。


隼は3年生になり、最後の大会に向けて益々練習が厳しくなった。


この時期になると、部員も顧問もコーチも、皆大会のことで頭が一杯になる。


若干部の空気もピリつくのも毎年のことだ。




俺はあの日以降、隼から何度か相談された。


LI○Nでのメッセージだったり、電話で話したり、直接部活の後に話し合ったり、様々な方法でだ。



俺は隼の話を聞くたびに真剣に答え、一緒に解決方法を考えた。


隼は俺の気持ちを受け取ってくれて、いつも晴れやかな顔で礼を言ってくれた。


すると俺も悪い気はしないので、どんどん隼に相談して欲しいと思うようになった。



まさに今のようなデリケートな時期に、隼からの相談は増えていくのだった。




「ねえ、最近春馬、顔怖いよ?」


金曜日の部活後、同棲中の彼女に顔を覗かれながらそう言われた。


「ごめんごめん。大事な大会が近くてさ。顔に出てた?」


「出てたよー。私と結婚する話も延ばされたし……家にいても最近は全く構ってくれないし……私不安なんだけど」


「それはほんとにごめん。不安にさせないように頑張るから」




俺は結局、彼女との結婚は延期することにした。


理由は様々だ。


だが、彼女を不安にさせていることは重々承知だったし、本当に申し訳ないと思っていた。





「あ、ちょっとごめん。」




俺はスマホに表示された通知を見て、部屋を出る。



「もしもし、隼?大丈夫か?」



俺は隼から連絡が来たら、できるだけすぐ電話をかけることにしている。


元々メッセージのやり取りがマメじゃないというのもあるが、直接声を聞いて話をしたかったのもある。



「ああ、うん、うん。そうかそうか。まあそんなに気にしなくてもいいと思うぞ」



俺は家にいても隼の相談を受けるようにしている。


そのときは廊下に出て話を聞くことにしている。


そうしないと、彼女が不機嫌になるからだ。





「ああ。ならよかった。うん、じゃあまた明日な。ゆっくり休めよ?うん、おやすみー」




隼は俺が彼女と同棲中であることを知らない。


知っていたらきっとこんなに連絡はしてこないだろう。


俺は今日もまた隼の役に立てたということを嬉しく思いながら、彼女のいるリビングに戻った。



「ねえ、最近ずっと生徒と電話してるって言うけどさ。毎回毎回同じ子じゃない?」



彼女はソファに座りクッションを抱きしめながら不満そうに言う。



「うん。まあ、悩みの多い子だからな」



俺は隼について彼女に詳細は話していない。



「でもさ、いくら悩みごとがあるからって、普通勤務時間外の先生にバンバン連絡しなくない?いくら子供でもそこら辺は分かるでしょ。その子、ちょっと常識ないんじゃないの?」


「そんなことないよ。めちゃくちゃいい子だぞ。」


「いい子なら先生のプライベートをもっと尊重すると思うんだけど。ちょっと依存し過ぎだよ春馬に。」


「そう言うなよ。俺だってそいつから相談されるのは全然嫌じゃないんだよ。ていうか、むしろ俺から相談しろって言ってるわけだから」


「私の話は最近ずっと上の空で聞いてるくせに、何でその子にはそんなに肩入れしてるのよ?」


「肩入れとかじゃないよ。俺の部活のキャプテンなんだ。そりゃあ話し合うことも多くなるし、悩みも増えるだろうから支えたいと思ってるだけだ」


「だからそれがなんで私にもできないのって言ってるの!春馬が生徒思いなのはいい事だよ?そういうところが好きなんだし。だけど、最近近くにいる私を全く見てくれないじゃん!春馬のプライベート侵害しまくるような非常識な子供の方が私よりも大事ってわけ!?」


「それは考え過ぎだよ。ていうか、そいつのことをそんな風に言うな!何も知らないくせに好きなこといってるのはよくないぞ!」


「なにそれひどい!やっぱり私よりもその子のほうが大事じゃん!もういい!」



そう言って彼女はバタン!とドアを閉め部屋を出て行った。



俺は追いかける気にもなれず、それをただ見ていた。



確かに彼女に構えていないのは俺が悪い。


仕事ばかりなのも、これから先のことを考えたときに不安にさせる要素なのも分かってる。



けど、彼女に隼のことを悪く言われたのが、俺はどうしても許せなかった。



あいつだって、あいつなりに悩んで苦しんでいる。


周りに相談できる相手もいない。


だから俺を頼ってくれてるだけなんだ。



それなのに非常識だの依存し過ぎだのと言われると、何も知らないくせにと思ってしまう。



やっぱり、隼の苦しみを理解できるのは俺だけだ……


そう思うと、あいつには俺が必要なんだという気持ちが益々強くなった。

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