第9話 爽やか熱血教師の話①
いつかはこうなると思っていた。
『2年A組 醍醐隼と密室で二人きりになるのは、今後断じてあってはならない。皆様各々注意すること。』
先日の緊急職員会議での決定事項を見て、そう思わずにはいられなかった。
俺は佐伯春馬(さえき はるま)。30歳の体育教師だ。
専門は球技全般だが、顧問としてソフトテニスを教えている。
うちの学校のテニス部は男女ともに昔から強く、全国からトップクラスの選手が集まってくる。
そんな強豪の部活を俺一人で見ているわけではなく、勿論ベテランの先生が2名と専属の契約コーチ数名、トレーナー2名もいる。
しかし、主たる顧問は俺だ。
俺も一応この学校のOBで、過去に全国大会での優勝経験もある。
だから技術指導をすることには何の問題もないのだが…………
「はぁ……これって、やっぱり俺も例外ではないよなあ……」
2年にしてうちの部の絶対的エースになっている、醍醐隼(だいご はやと)のことだ。
小学生の頃、学校を跨いだクラブで冷泉優(れいぜい ゆう)とペアを組んで様々な大会で優勝をしていた奴だったため、勿論俺も知ってはいた。
しかし冷泉と醍醐を揃って直接スカウトしたのは、第二顧問のベテラン教師の方だ。
だから俺が直接彼らと話すのは、入学後になってからだった。
しかしその時……
一瞬にして、醍醐はヤバイと思った記憶がある。
ヤバイとはまた、いい大人が使うような言葉ではないのだが、本当にそうとしか言えない雰囲気だったのだ。
とにかく、語彙力が失われる。
というか、言葉では表現し難い。
目を見ると、まるで奥まで吸い込まれるような…
しかも一度吸い込まれると、しばらく経ってもなかなか忘れることができないような、そんな瞳を持っていた。
学校内外でも噂があるようだが、うちの学校の男子ソフトテニス部にはなぜか美少年と言われるような顔立ちの生徒が多い。
だから俺もこの学校で5年以上やってきて、いわゆる「イケメン」は沢山見てきた。
しかし、醍醐隼はただ「イケメン」と評せるような雰囲気ではなかったのだ。
勿論顔立ちはこの上なく整っていて、誰が見てもカッコイイのは確実だが…
常に絶えない柔らかな笑顔や少し日に焼けた小麦色の肌、そこから除く白い歯、穏やかな声……
あいつの持つ全てが、言葉に表すのは難しい魅力を溢れさせていた。
それはやはり誰が見てもそうで、隼は入学早々全校生徒の注目の的になった。
今年の一年生にめちゃくちゃカッコよくて可愛い男子がいる……
そんな噂を聞きつけて、わざわざ放課後にテニスコートまでやってくる女子もいたくらいだ。
殆どの女子は練習の邪魔をしない程度に遠巻きに見ているか、練習前後に少し声をかけるくらいだったが、中には一目惚れでもしたのか執拗に隼を追いかける女子生徒もいた。
エスカレートし、ストーカーまがいの行為を働く奴もいた。
しかも、女子だけでなく男子生徒やたまに練習に来てくれるOBまでも、そういった行為をしてしまう奴も見てきたのだ。
だから、今回の奥山先生の件も…
この会議の決定事項も…
俺が長らく危惧していたことがようやく形になってしまった、という感覚だ。
そして俺も………
顧問という立場を理由に、醍醐隼と二人きりになれないことに一抹の寂しさを感じていたのだった。
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