第12話 急展開にして
「あのさあ……」
「なんなんだよ、さっきからため息ばっかつきやがって」
私は思い通りに行かなかった今日を思い出して、あまりに苦い記憶を振り返っていた。
そのせいか開き直るどころか寧ろどんどん自身の機嫌が悪くなっていっている気しかしないのである。
「…りいりも、たくさん友達が出来たら良かったんだけどね〜」
はあっと呆れるように出てくるため息をつくと、私は最早存在が“家のようになった”寮へ足を運んで行くのだった。
「ただいまあ…」
「ただいま」
気だるげな二つの声が揃って玄関に響き渡ると、その声にすぐさま気づいたのかロタの姿が現れた。
「あら、お帰りなさいまし」
笑みを浮かべて出迎えてくれるロタは、いつものお洒落な私服とは雰囲気が別のゆったりした服装をしている。
そのいつもとはギャップのある様子を見ていると──
いや、見ているだけで。
私は何か一言、言いたくなった──
「ねえ、ロタさんは学校行ってないの?」
「……学校」
途端、間を置くように沈黙が流れ出した。
もしかしたら禁句だったのかもしれないと後で気付いたのである。
「ええ、行っていません。最近はずっと…」
「ずっと?」
言いにくそうだったものの、事情を話そうとするロタさんの表情は少し苦そうな痛いところを突かれたと言うような感じだ。
私はロタさんに言いかけた言葉を促す。
「バイトをしていますわ」
なるほど。だから夜に出掛けて──
ん?夜?
流石に気のせいだろうか。何か嫌な予感が、どうしてもしてきてしまうのは。
これ以上聞いたら更に闇が掛かった話を聞かざるを得なくなるのではと思えば、一気にそれ以上話を尋ねる気は失せた。
*
同時間。㐮衣ともう1人の相手はその場の流れいわゆるノリで、一緒に歩みを進ませていたのだった。
「キミの名前教えてもらっても良い?」
「え、ワタシの名前?」
「うん!だ、ダメかなあ……?」
㐮衣は上目遣いがちに相手を見つめた。
「しょ、しょうがない。良いよ。教えてあげる……名前は…
「翡翠……」
「なんかごめん。ワタシの名前のせいで…」
㐮衣はその言葉でハッとした。
予想以上に良い響きの名前だったために何回も心の中で唱えながら噛み締めていた物だから──誤解をさせたなんて思わなかった。
「ううん、翡翠ちゃんは悪くないよ!」
ガッツポーズではっきり宣言するように述べれば、目の前に驚いたように目を見開く彼女が居た。
もしかして何かやらかしてしまったとか?
……いや、意味合いが微妙に違う。さっきの㐮衣の行動をもう一度思い返してみる──
予想以上に良い響きの名前だったために何回も心の中で唱えながら噛み締めていた物だから──誤解をさせたなんて思わなかった。
『ううん、翡翠ちゃんは悪くないよ!』
なんてことをしちゃったんだろう。まさか、すぐに名前で呼んでしまったなんて──
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