第10話 なんて幸せな
ピピピ、ピピピ。
何回か鳴ることでデジタル式の時計が私の体を覚まそうとしている。
私は眠い目を擦りながら欠伸をしつつもカーテンを勢いよく開ければ、はっきりと目覚めた。
「昨日の、美味しかったなあ……」
美味な味を想像して、思い出せば思い出すほどまた食べたいと欲望を口にする。
あれは昨日のディナーの時のこと──
「遅れたのは実はこれだけ沢山のご馳走を作ってたからなの……召しあがれ……」
ルミの背後からは先ほど既に分かっていた通りの、美味しそうな料理の香りが漂ったままであった。
間違いなく肉料理は入っているであろう──
見てみればフライドチキン、牛肉ステーキ、ドレッシングサラダが運ばれてくる。思わず美味しそうと思えば、お腹の虫が鳴った後のように一気にお腹が空いて──
「……はっ!こんな事してる場合じゃない」
私は我に帰ると、すぐさま辺りを見回す。
誰も辺りの近くには居なかったものの、少し反省点が垣間見えた。
「学校行かなきゃ」
「おい」
「……え?」
私は恐る恐る背後を振り向く。その声の主はなんと糸蘭の姿であった──
「どどど、どうしてこんなところに!?」
後ずさるようにしながら私はダッシュする時の勢いを思い出しつつ、そう尋ねる。
「オレも学校行けって言われたんだよ、…お前だってそうだろ?」
頭を掻きながら大きなため息をつきつつ、退屈そうに理由を答える糸蘭。
「そう…、りいりは今日からこの学校に転校という形で転入するの。前の学校に行こうとすると前の倍、時間が掛かっちゃうし」
「あーそうだったのかよ」
「聞いてきたのにいざ答えたら、そうやって興味なくした返事するのやめろって〜」
むうっと頬を膨らませながら言えば悪い悪い、と言わんばかりの表情を浮かべている。
全く、それだけで許すはずがない──
私は
「ならお前だって大変なんだな」
「え?」
突然の態度の変動に私は無意識で頬を膨らませた表情を、目を丸くし驚いてしまっている表情に変えていた。
「だってお前にだって友達いたんだろ?それならさ、フツー別れるの寂しいとか思うんじゃないのか」
思いがけない疑問に、脳が追いつかないまましばらく無言の空気が流れる。もしかして心配してくれているということだろうか。
「気遣いありがと。でも、ちゃんと連絡とってるし寂しいとかそういう気持ちは無いわ」
私はにっこり笑みを浮かべて答えた。
──学校へ到着して数分後。
教室のドアを開ければ、クラスメイト数人の視線が此方へ向きつつもこそこそ話が聞こえて来る。
私は気づかれない様にそっと覗き見た。
「ねえ知ってる?今日転校生が来るらしいよ」
「知ってる知ってる!……もしかして、あの子じゃない?」
「可愛い子だといいんだけどなあ」
そんな男子と女子によるそれぞれの会話がこちら側にも丸聞こえなことは、ともかく自信満々な気持ちしか湧いてこなかった──
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