第9話 きっと二度とないはず
「遅くなった……」
こっそりと此方の様子を窺いながら顔を出すルミ。背後からとても美味しそうなにおいが漂ってくるのが鼻に伝わる。
「もしかしてやっと飯が出来たのか?」
オレ腹空きまくってんだけど、と言わんばかりにお腹を撫で下ろす糸蘭から途端にぐ〜〜っと空腹を知らせる音が聞こえてきた。
「えー糸蘭くんお腹空いたんでしょー?」
「うっ、うっせえよ!」
どうやら㐮衣にバレてしまったことで糸蘭は顔を赤くし恥ずかしがっているようだ。
「あっれれー、じゃあこんな空腹って感じの音が聞こえるわけないよねー?糸蘭くんじゃないなら、誰なんだろ〜?」
わざとと言う感じに糸蘭の反応を面白がっている。揶揄うのがあまりにも楽しくて楽しくて…しょうがないのだろう。
「まあ…それより、ごっはん〜!」
「ぐ、ぬぬぬ……」
相変わらず能天気に話題を変えた㐮衣を見て。
彼は悔しそうに拳を握るもどうやら殴ろうとするつもりはなく、必死に抵抗しているようだ。
「喧嘩したら……ダメ、仲良く…」
どうやらかなり美味しそうな匂いが近づいてくるかと思えば、そんな言葉が近くに飛び交う。
「はあ!?お前オレとコイツの間で起きたこと分かって言ってんのかよ!」
しばらく無口に糸蘭と㐮衣を見つめる。
私はその間が空いた1分間は時間が止まっているように静止していた気がしていた──
するとルミは決断出来たのか二人を見渡してはっきりと頷く。
「見てた」
「本当かよ…」
ぶつっと呟く彼の言葉に嘘はない。
何故ならばその視線を真剣な眼差しで向けていたからであった。
それだけは今日此処に来たばかりの私にも理解することができるたった一つだけの要素だった。
「本当なら、全部説明してもらうからな」
「何を…?」
動揺もせずただ見つめて首を傾げるばかり。
するとその様を見て尚更感情が昂ってきてしまったのか否か、腹を立てたかのようにルミを睨み人差し指で指した。
「だからさっきから言ってんだよ!経緯を全体的に説明してみてくれって!」
「……」
流石に突然すぎる出来事に何か考え事をしているのか、ルミは無言で彼をそのまま見つめたままで居る。
「おい!返事しろって」
しかし何も言わないし動くこともなく。
「聞いてんのかよ?」
「…さっき見たって言った」
ため息を吐けば少し面倒そうにしながらも何か心当たりありそうな表情を浮かべる。
「糸蘭のお腹の虫が鳴いた時に㐮衣が馬鹿にしてきて、糸蘭がムカついた…」
淡々と正解の解答を口にされてしまい驚いたのか目をぱちくりとさせている。
「そ、そうだよ…正解じゃない?糸蘭くん」
「ああ…」
あまりにもの図星の答えに何も逆らえなくなったらしい、それ以上叫んだりすることは無くなった──
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