第8話 一身上の都合

「あー、それはちょっと…」


私にまるで何か秘密を隠しているかのように視線を逸らす協の姿はとても不自然に見える。


自己紹介の時から既に思っていたが人見知りで、コミュニケーションが苦手なところも少しあるのかソワソワしていて落ち着かない様子の彼を理解することが出来ない。


全くにも焦ったくてうんざりしてきたが事情と言われればそれ以上追求することもできないであろう。


「何か言えない事情があるならりいり、細かいことに首を突っ込むつもりなんてないわ」


「いやそう言うわけじゃなくて」


何か言い訳をしようと慌てふためいている彼の様子にじとーっと彼を睨む。


「それじゃあどういう意味?それってつまり言えないってわけじゃないってことね、じゃあ教えてもらおうか…」


「うっ……わ、わかりました」


少しやりすぎたかと思うもこれぐらいは手加減だと思い出せば、真剣な眼差しの目線を向けてみて…これぐらいしなくては。


「実はロタさんは毎週1回は遅れて家に帰ってくるんです、何故かは…その、わからないんですが」


「ふーん…」


すると私は回想のように昼ごろに聞いた雨葉奈ロタの自己紹介を思い出してみることにした。


確かそこまで何か闇を感じさせるような雰囲気を持っているようにも思えず、寧ろ育ちの良さが垣間見えた礼儀正しさを持った美少女。


しかし──だからこそ。


何か言えない事情を持っているのかもしれないと私は考えた。


それに協がロタについての話を嘘ついてまで私を騙そうとするかと思えば。



そんなことをする可能性は低い気がする──



──


「うふふ、今日も頑張らなくてはいけませんわね……」


暗闇の部屋。


何処か殺風景と感じさせる内装でベッドしか置いていない場所の中で、ぼそっと独り言を呟き自信満々にこれから出掛ける準備を行おうとする。


クローゼットをゆっくりと開ければ、たくさんハンガーに掛けられたワンピースの中の1つを取り出す。


「これならきっと誰でも夢中になれますわね」


そう誰か第三者視点でこの雨葉奈ロタの行動を見たとするなら、きっと誰もが意味深だと答えるであろう。


着替えをしようと今まで着ていた服を脱ぎ始めていれば、唯一最初から設置されているベッドに置いてあったスマホを掴んだ。


「まだ来ないのですねえ…」


口角を上げて笑みを浮かべるように画面のとある通知を見てみる。さあこれから待望の時がやってくる───


そう考えていると途端にタイミングよく新しく出てきた通知がポンっと音を立てる。


「雨葉奈ロタ……行って参りますわ」

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