悠然たる毎日

第6話 行方

「りいり、ここを使って…」


私はルミに連れられて一緒に長い廊下を歩いて行く。“ここ”と言われ示されたのは奥から2番目の部屋だった。


何処からか持ち出した鍵でガチャリと音を立ててドアを開ければ、そこには簡易にベッドと机と椅子が置かれており他には何も配置されていない為にシンプルな内装。


だがしかし、今日の目的を忘れていたわけではなかった。そう、それは本来今日からお世話になる場所についてである。


いつのまにか忘れてしまっていたものの、やはりそこはハッキリしておかなくては。


「ごめんなさい……りいりは早くお世話になる場所を探しに行かなきゃ行けないの」


私は思い切って口を開きながらそう答えた。


「どう…して、そんないきなり?」


少し寂しそうな表情で私を見つめるルミ。


私は思わず負けてしまった。


「だ、だって…早く行かないと心配させちゃうし」


「違う。場所は此処で合ってる…」


「え?」


ルミは真剣な眼差しでこちらを見つめていた。


すると、そのままわざわざ用意していたのか地図を取り出すとそっとルミは私に差し出してくれた。


「ここは……」


私は驚きで目を丸くしてしまった。


なんとそこには先ほどまで居た公園の名前が書かれており、その近くに自分の家があったことを思い出したからである。


「ソルミィは、この寮の管理人だから細かい引っ越ししてくる人のことについてもきちんと管理してる」


「……ルミ」


「だから信じて?……ソルミィを」


真剣な眼差しで私を見つめればルミは地図をポケットの中に畳んで入れた。


「ねえ、ダメ?」


見つめるだけではなく少し上目遣い、その上目がうるうるしている様子の彼女を見れば信じるしか無くなった。


「わ、わかった…疑って悪かったわ」


うん、大丈夫と分かればそれで良いと言うようにはっきり頷くと話題は切り替わる。


「それでね、今日は18時からディナーがある…朝昼晩は皆で揃って食べようって心がけてる…だから一緒にどう?」


今度は私は即返信をすることに決めた。


「勿論。行くに決まっているわ」


「やったあ」


控えめに喜んでいる様子だったが彼女にとっては最大の喜びの表現らしく、機嫌良さそうに笑みを浮かべている。


「じゃあ…楽しみにしてる」


そう言い残すとルミは部屋から去っていった。




ディナーは18時から──か。


まだ初めて来たばっかりで色々分からないこともあるし、沢山お礼を言わねばならないことも有り余る程にある気がする。


正式に入居したのだから改めて挨拶をしなければならない。


素直になれなくてもそれだけはしておきたい。

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