第3話 有り得ない夢がはじまるならば

すると、私は予想外の展開に目を丸くしてしまう。


なんと彼は───私が持っていたはずのキャリーバッグを手にしていたのだ。


「…なんで………っ」


怒りが沸き起こってくると耐えきれず私は彼の方に近づいて行く。


抑えきれずに気付けば行動してしまっている私が居たのだ。


「ねえ、どうして持ってるのよ……それりいりのだから。返して!」


「じゃあついて来いよ」


相手は真面目な顔で言って退けているものの私は本気だった。私のことを馬鹿にしているのだろうか?


「どういう事……?」


彼は私の独り言を無視して公園から出て行こうとしている、しかし落ち込んでいてもしょうがない。


下を向いてでもついて行くしかないのだ。


私のキャリーバッグを持ってまるで逃げるように走っていく彼を追いかける。


思ったより彼はとても足が早かった。


「はあ、はあ、……早すぎるって!」


その場で立ったまま私は息を整える。


「早く行かなきゃ見失っちゃう〜〜!」


少し休憩するとまた走れる体力が戻ってきた気がする。


しかし非常に喉が渇いていた。


あれ───


頭がくらくらする──


私はいつの間にかバタッと倒れていた。思えば視界もだんだんと暗くなっていくような──


ぱちっと目を開けるとなんと見慣れない天井が視界の上にあった。


私はなぜここに居るのだろうか、そして何より何処に私は居るのか。


思考を働かせる前に起き上がろうと踏ん張る。


急にビリビリと光線に打たれたような頭痛が走った。起きるのは諦め、改めて体を横に。


するとガチャリとタイミングよくドアが開いた。


ドアを開いた相手──彼女は私より遥かに低い身長だ。


だがとても人を惹きつけそうなオーラを感じた気がして、思わず見惚れてしまった。


こちらに顔を覗かせると彼女はなかなか声を出さないものの、私の様子を伺っているみたいだ。


どうすれば話せるのか。


考えついた策は一つしかなかったがそれ以外に方法があるようにも思えなかった。


「……痛ッ」


すると彼女は心配そうにこちらを見ている。


無理に起き上がらなくても大丈夫です、と視線で問いかけて。それだけで心から気にかけてくれていることがわかった。


「だ…」


私はありがとうと声を掛けようとしたが届かなかった。


いや、届けようとしなかった。


何故ならドアの向こうからこんな声が聞こえてきたのだから。


「ああ、ここの部屋かよ」


ガチャリとドアを開けて入ってきた彼は先程見つめ合っていたミントグリーンの髪に灰色の横長な瞳を持った少年であった─


予想外の展開に思わず固まってしまう。


「さ、さっき公園で会ったあの…」


「?」


「入ってこないでえええっ!」


とても不思議そうな表情の少年の頬にいつの間にか平手打ちしてしまっていた。


「ちょっおかしいって!そんなことお前に言われる筋合い無いんだよ」


平手打ちした頬を撫でながらキレてくる彼の言い分を私は理解することができない。


「どういうことよ?」


「ルミに言われてこの部屋に来たんだよ!俺に出来心なんかねえし」


ルミとは一体誰のことを指しているのだろうか──


そう考えていると再びドアが開く。


お嬢様っぽい雰囲気の少女に連れて、若干可愛さとパンクさを混ぜた服装の少女。


そして後列に大人しそうにスケッチブックを片手に持った少年の3人が入ってきたのだった。

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