第6話 ルシフェと、冒険者の男と、テイスト暗殺計画

Side:ルシフェ

「お前が呪術師か?」


 若い冒険者の男が部屋に入って来ました。

 私は上級魔族のルシフェ。

 街に潜入して裏工作をするのが任務です。

 表向きは呪術師を名乗っています。


「呪殺の依頼ですか?」

「いや、俺に掛けられた呪いを解いてほしい。できなければヒントでも良い」


 ふむ、見たところ呪いの気配はなさそうです。

 これでも呪いに関しては魔族の中でも指折りだと自負しています。

 少し興味が湧きました。

 この男をもてあそんで邪神復活の生贄に奉げるのもいいでしょう。


「どういう経緯でそうなられました」

「テイストという奴を邪神の穴に突き落としたんだ。だが奴はピンピンしている。おかしいだろ。きっと邪神に呪いのやり方を教わったんだ」

「それはいつの事ですか?」

「5日前の事だ」


 おお、5日前というと邪神様が亡くなられた日ではありませんか。

 邪神様の死因はいまだ判明しておりません。

 仲間の見立てでは毒を盛られたという事ですが。

 邪神様に通用する毒とは一体なんでしょう。

 神から賜った毒でしょうか。

 とにかくテイストが一枚噛んでいるのは間違いなさそうですね。


「テイストという男を私達の手の者に始末させましょうか?」

「それが呪術の正体か。はっ、とんだ偽物だな。だが、面白いかもな。いくらで請け負う?」

「では金貨30枚頂きましょうか。その男の詳しいスキルとかを教えて下さい」


 男はテイストの特徴をべらべらと喋り、取引が終わって、帰って行った。


「ミスト、ドッペル、聞いていましたか?」

「ええ」

「おう」


 私は声を掛け返事がありました。

 ミストとドッペルが暗闇から、出て来ます。


 ミストは霧の体をして揺らめいて見えて、まるで湯気で作った人間です。

 霧のモンスターですから、鍵が掛かった部屋にも容易く忍び込めます。

 弱点は……おっと誰が感づくか分かりません。

 思考しただけで、読み取られる危険があります。

 念には念ですね。


 ドッペルはツルツルしたのっぺらぼうで、まるで灰色の飴で作った失敗作の人間に見えます。

 化けるのが得意で、色々な裏工作に向いています。


「二人ともテイストを殺してしまっても良いですが、殺せない場合は手の内を探りなさい」

「かしこまりました」

「了解した」


「手筈は各自考えるように」

「私、チンピラを使って、実力を確かめた後に、狙撃する予定です」

「俺はさっき来た男に化けて、隙を見てテイストにモンスター寄せの薬品を掛けようと思います」


 ふむ、二人とも良い手です。

 ミストは弓の名手で毒矢を使います。

 これでテイストが毒使いかどうか、分かると思います。


 ドッペルは上手くやるでしょう。

 モンスターに囲まれればテイストも本性を現すに違いありません。


 さっき聞いた話では、テイストのスキルは味変です。

 これは嘘に違いありません。

 聞いた事のないスキルですから。

 毒なら舌を誤魔化して麻痺させる事も可能です。

 毒スキルを味変などというスキルに偽っているに違いありません。


 検出されない神すら殺す毒。

 これを使えば宿敵の創造神を倒せるやも知れません。

 創造神に効かなくても、使い道は沢山ありそうです。


 私は次の客を待った。

 次の客は女で恋敵を呪って欲しいそうです。

 呪ってあげましたよ。

 死んだあかつきには、二人とも魂を邪神様の卵に奉げましょう。

 きっと邪神様もお喜びになるに違いありません。


 呪術師の職業は実に良い。

 客はここに来る時に他の人間にばれないように細心の注意を払います。

 もしばれても、大暴れするだけですが。


 邪神様が復活するまで後1万人ほど生贄を奉げないとなりません。

 ダンジョンに入った冒険者だけでは到底足りません。

 仕方ありませんね。


 私は、人間たちの集会に出ました。


「おお、教祖ルシフェ様がいらっしゃった」

「いつ、不老不死の望みは叶えて頂けるのですか」


「邪神に1万人の生贄を奉げなさい。さすれば叶うでしょう」

「おお、ありがたい。おい、今日の生贄を連れて来い」


 生贄が連れて来られました。

 悲しいですよね。

 呪いたいですよね。

 いいですよ、叶えてさしあげましょう。


 私はこの場にいる全員に呪いを掛けて魂を邪神様に奉げました。

 良かったですね。

 不老不死が叶って。

 邪神様の一部になれば、不老不死です。


 収穫を待っている団体はまだあります。

 順次、刈り取って行きましょう。

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