第7話 望む通りに

 彼女が雪原に出た時から確信はあった。

(やはり、病衣以外何も身に着けていない)

 素足で、薄着で、彼女はこの零度を超える極寒の雪原に身をさらしていたのだ。

 だから、凍傷が酷い。

 このままでは細胞が壊死して死んでしまう。

(時間がない!)

 すぐにアイリスは少女に近寄ろうとする。

「っ!」

 だが、突如としてその場を退けば、突如として雪が吹き飛ぶ。

「彼女の近づくな、忌々しい『顔無し』風情が」

 怒気を孕みつつも未だに母性感あふれる声を発するのは、白ドレスと金髪の女だった。

のリストーン・レキントか」

「軽々しく名前を呼ばないでくれる顔無し?」

 その表情は、怒りというよりは無表情だった。

 だが、今のアイリスにそんなことを気にする余裕はない。

「このままじゃ彼女は死ぬぞ!」

「安心なさい。我が国の技術を使えば治療することは造作もないわ。むしろ、貴方たちに彼女を渡すわけにはいかないの、さあ」

 リストーンは少女に向かって手を差し出す。

「私たちと一緒に行きましょう?」

「ゃぁ・・・!」

 しかし少女は拒絶するように距離を取る。

「どうして?ここには貴方を傷つける人しかいないのよ?」

「ぁなた・・・だけは・・・ゃぁ・・・!」

 少女は、必死に拒絶の意思を示す。

「どうして?」

「ぁなたは・・・おじぃさんを・・・ころした・・・だから・・・ぃかなぃ・・・!」

 途切れ途切れの声で、少女は精一杯に叫ぶ。

「篝さん、まずいです。このまま吹雪に晒され続けたら・・・」

「分かっている・・・!」

 すぐにでも飛び出したい。だが、篝の視界は捉えている。


 リストーンの周囲に展開された、無数の手を。


「なんですかあれ。千手観音ですか?聖女機関って聖国の組織ですよね?聖国の人間なのに皇国の神様祀ってどうするんですか」

「馬鹿がよくみろ手の数は百本だ。あれは『ヘカトンケイル』だ」

 百腕巨人ともいわれる伝説上の巨人、ヘカトンケイル。

 彼女のリンカーはそれに由来するものなのだろうか。

 先ほどのアイリスを阻んだのが、あの空中に浮かぶ手の一本だということだろう。

 そんな中で、少女は篝の方を向いて叫ぶ。

「ぁなた・・・も、かぇって、くださぃ・・・!」

「・・・・は?」

 少女は、泣きそうな顔で叫ぶ。

「わたしとぃっしょだと・・・だれか、しんじゃぅから・・・・わたしをそだててくれた、おじぃさんも、わたしとぃっしょにぃたから、ころされちゃった・・・!」

 リストーンは、訳が分からないとでもいうように首を傾げる。

「う~ん、それがどうして私と一緒に行かない理由になるのかしら。男は皆、汚くて、ゴミで、そして貴方を穢す存在よ?消えて当然、むしろ私は、貴方に感謝されるべきじゃないかしら・・・?」

 しかしその言葉を少女は聞かない。

「わたしといっしょにいれば、かならずだれか死んじゃう。ずっとそうだった。おじいさんも、わたしのみかたをしてくれたひとも、みんなしんじゃった。だから、だめなんです・・・わたしは、だれかといっしょにいちゃいけないんです・・・!」

 少女は、泣いていた。

 しかしその涙は、この吹雪の中で一瞬で凍ってしまう。

「だから、かえってください・・・わたしは、『やくびょうがみ』・・・なんですから・・・・」

 そして、精一杯の笑顔を、アイリスに向けた。

「わたしは、ここで、いなくなりますから・・・・」

「それはダメよ。貴方は死んではいけない子なの。そう、この世の全ての女は生きている価値があるのよ」

 リストーンは、少女の元へ向かおうとする。

 だが、そこへアイリスの放った弾丸が飛ぶ。

「ぐぅっ!?」

 済んでのところで、展開していた手が彼女を守る。

「ぅぅ・・・」

 激しい衝撃が、少女を襲う。

 しかし、アイリスは―――天城篝は少女を見ていた。

 その視線に、少女は竦む。

「・・・アリス」

 篝は、少女の名を呼ぶ。

「この世は、どうしようもないくらい残酷で、苦しくて、辛くて、不完全で完璧じゃない。人も、この世に生きる生物も。生活を豊かにするために作られた道具だって、全部だ」

 マークスマンライフルを構えたまま、篝は少女に言い続ける。

「誰だって完璧じゃない。誰だって完全じゃない。人に心がある限り、きっとそれは永遠に進んでいく」

 篝は、少女を見る。少女という存在を真っ直ぐに見据える。

「じゃあ、どうしたら・・・」

 そして篝は、銃をおろした。

「この世界は残酷だ。力のない奴は簡単に押し潰されて終わる世界だ。どんなに言葉を尽くしても、その言葉に力がなければ何も届かない。どんなに力があっても信念がなければ誰もついてこない。そしてこの世界は、手前一人死んだ所でどうこうなるほど簡単じゃない」

 その言葉は、確かに少女の心に突き刺さった。

「手前が死んだ所で、悲しむ人間は誰もいないだろう。そして手前が死んだ程度で何かが変わる訳でもない。手前はどうしようもなく弱くて、この世界のとってどうでもいい存在だからだ。どれだけ手前が人を拒絶しても、その拒絶にすら意味はない。はっきり言ってお前のやってることは無駄だ」

 篝は、少女の言葉を否定する。篝は、少女の行動を無駄と罵る。

「そん・・・な・・・・」

 少女は、絶望する。自分のやろうとしていることの無意味さを、まだ何も知らないなりに痛感する。

「もう黙りなさい」

 そこへ、リスカーンの手が篝に襲い掛かる。

「ブローニャ!」

 しかし、それらは全て、ラーズグリーズの操る機甲の前に阻まれる。

「何故邪魔をするの?」

「篝さん、急いでください!」

 ラーズグリーズが、リストーンの言葉を無視して二人の邪魔をさせないように踏ん張る。

「わたしは・・・むだ・・・?」

 視界がぐらぐらと揺れる。

「それじゃあ、わたしは、ぃったぃ、どうすれば・・・」

「アリス」

 そんな少女に、篝はもう一度、その名を呼ぶ。

「どれだけ言葉を尽くしても、何も出来ない奴が何かを変えることなんてできない。手前の目に映る世界はもう、美しくはないだろう」

 篝は、拳を握る。

「だからこそ」

 そして、少女を真っ直ぐに見つめた。


「この不完全で完璧じゃない世界を、自分テメェの望む通りに変えるべきなんだ」


 少女は、その意味を理解できなかった。

「のぞむ、とおりに・・・?」

「この世界は、不完全で完璧じゃない。だから自分の思い通りにならないことなんていくらでもある。何が好きでこんな世界に生まれてきたわけでもない。どういうつもりでこんなことになっているのか分かる訳がない。」

 真っ直ぐに、ただただ自分の思いだけを言葉に表して。

「アリス、手前は弱い。だけど、手前には世界を変えるだけの力がある。手前はまだ、その力の使い方を知らないだけだ」

 凄まじい音が、すぐ近くで響く中で、アリスはその言葉を聞いた。

「俺が使い方を教えてやる」

 そして、篝は手を伸ばした。

 その手を見て、少女は、躊躇う。

「でも、わたしは・・・・」

手前テメェ如きがもたらす不幸は俺が全部叩き潰してやる!」

 篝は叫ぶ。叫んだ。


「俺と一緒に来いっ、アリス!」


 それは強引な言葉だった。

 自分の自論を、ご高説に垂れるだけ垂らして、そして挙句の果てには人についてくることを強要する。

 自分勝手も甚だしい。

 だけど、少女には、そんな彼が眩しく見えた。

 自分勝手だから、自分を隠さない。自論を持っているからこそ、自分を見失わない。

 この人は、本気で、わたしを手放すつもりはない。

 たった一日だけの出会い。それでも少女にとっては、あまりにも鮮烈で、そして―――


 ―――彼が私に、温かいものをくれた。


「っぁ・・・・」

 少女は、精一杯手を伸ばした。

 青くなって、もう、何も感じない手だけれど、少女は精一杯、手を伸ばした。

 ずっと、誰かが傷ついていく度に、心の奥底で抑え込んでいた言葉を。

 やっと、少女はその言葉を―――アリスは吐き出した。


「・・・・たす・・・けて・・・・つれて、いって・・・!」


 次の瞬間、無数の手がアリスに襲い掛かる。

 だは、篝が少女の手を掴み、ラーズグリーズが『ブローニャ』でその手を防ぐ。

「ラーズ!」

「はい!」

 篝は下がろうとするラーズグリーズにアリスを預け、自らはリストーンと対峙する。

 そして、アリスを連れてラーズグリーズは彼女を守り、篝―――アイリスはマークスマンライフルをリストーンに向けた。

「ああ、なんてことをしてくれたの」

 リストーンの顔は、怒りで歪んでいた。

「小賢しい甘言で、救いを求めた女の子の心を弄ぶとは・・・この悪魔!いいえ、それどころか家畜と言うのもおこがましい程に醜い顔無し風情がぁ!!!」

 リストーンの感情に呼応するかのように、百本の手がアイリスに向けられる。

 一方、アリスを確保したラーズグリーズは、突然現れた透明なドームに、アリスと共に入っていた。

「ぁ・・・あの・・・」

「よく言いました」

 その頭を撫で、ラーズグリーズは褒める。

 さらにアリスの体は、いつの間にか体にフィットするタイツを着せられていた。

「え・・・?」

「凍傷をしていてすぐに温めないといけないので、休息に体を温めることのできる服を作らせていただきました。お風呂に入っているのと同じ感覚ですよ」

「ぁ・・・・」

(ほんとうだ・・・あったかい・・・・)

 と、とろけかけたところで、


 ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!


「っ!?」

 すさまじい連続した音に、アリスはアイリスのいる方を見た。

 そこには、襲い掛かる百の手が、アイリスに襲い掛かっている姿だった。

「ああ・・・!」

「大丈夫です」

 叫ぶアリスの肩に、ラーズグリーズはそっと手を置いていう。

「言ったでしょう。あの人は強いって」


 ズダダンッ!!


 銃声が聞こえた。

 放たれた弾丸が、同時に襲い掛かってきた『手』を弾き飛ばしたのだ。

「くっ!」

 リストーンは顔を歪ませ、すぐさま別の手でアイリスを殴ろうとする。

 だが、アイリスはその手のマークスマンライフルの銃床で叩き、銃身で殴り、銃剣で裂き、銃弾で撃ち抜く。

 アイリスの放つ銃剣の反撃は、リストーンの使う『ヘカトンケイル』の『手』の数を減らしていく。

(どういうこと!?ヘカトンケイルのパワーは山をも砕く威力と硬度を持つ、それなのにあんな顔無しの攻撃でどうして砕けるのよ!?)

 だが、砕かれたとしても、ヘカトンケイルの『手』は時間経過で新たに生み出される。

 これではきりがない。

 アイリスは迎え撃つことをやめ、回避に切り返る。

 無数に襲い掛かる『手』がアイリスの体を掴みにかかる。だが、アイリスはまるで踊るようにその攻撃を躱す。


 ―――ワルキューレスタイル『フェアリィダンス』


 速く、そして華やかさのある踊りのような動きでアイリスは『手』を翻弄する。

(捕まえられない・・・!?)

『手』の追尾能力は、チーターですら逃げられない程正確で素早い。

 それなのに、嘲笑うかのようにアイリスは『手』の攻撃を回避していた。

 例え四方八方を塞がれても、やはり妖精のように躱されてしまう。

(というか、あの動き、どこかで・・・)

 針の糸を縫うような体捌きで『手』の猛攻を搔い潜るアイリス。

 そして、隙を縫ってトリガ。放たれた弾丸が真っ直ぐにリストーンに迫る。薬莢が飛ぶ。

 だが、その弾丸は彼女のすぐ傍にいた手に止められる。

 さらにもう二、三発放つが、同様に防がれる。

(これが奴のリンカーの能力)

 無数の手による攻撃と防御。単純ではあるが、単体の敵であればほぼ封殺して叩き潰すことが可能だろう。

 無数に襲い掛かる手が、敵を自動追尾し、自分はただ見ているだけでいい。

「そうよ。醜い豚ども相手に私自身が手を下す必要はない。勝手に戦って何も出来ずに勝手に死んでく。これほど面白くて愉快なことはないわ」

 リストーンは嘲笑う。

 その醜悪な理由の笑みに、アリスは気持ち悪さを覚える。

「大丈夫です」

 そんなアリスに、ラーズグリーズは寄り添う。

は、こんなものではありませんから」

 その言葉の意味を、アリスはすぐに知る。

「さあ、無数の手に掴まれ、その身を引き裂いて無様に死になさい!顔無しィ!」

『手』が、今度こそ篝を捉えるべく、四方八方から降り注いでくる。

 それに、アイリスは――――


「―――対抗創造カウンタークリエイト


 ―――同じ『手』を作り出し、全て正面衝突させ、相殺した。

「・・・・は?」

 その光景に、リストーンは呆ける。

(え・・・なに、今の・・・私の、『ヘカトンケイル』!?)

 今、アイリスが放ったのは、リストーンの『ヘカトンケイル』の『手』だ。

 それが、自分に襲い掛かってきていた手とぶつかり合い、相殺した。

 同じだけの力で。

「これが、『ラーズグリーズ』の能力『万物創造』。俺のエーテルが尽きるまで、生物以外のどんなものでも創れる能力だ」

 アイリスが手を振れば、彼の周囲に無数の特殊な形状の砲門が二十四丁現れる。

砲射フォイア

 放たれた、エネルギーの砲撃。

 熱線がまとめてリストーンに襲い掛かった。

 激しい衝撃があたり一面に響く。

「すごい・・・」

 アリスはこの光景に目を奪われ、そしてアイリスの姿に見惚れる。

 だが、煙が晴れればそこには『手』で砲撃を阻止したリストーンの姿があった。

「防いだか」

 しかしその姿はボロボロだ。流石に全ては防ぎきれなかったらしい。

「この、豚風情がぁぁぁ・・・・!!」

 もはや聖女の威厳など欠片もない。

 そして、ヘカトンケイルの『手』が復活して再びアイリスを襲う。

 アイリスは再び踊るように躱す。

 無数の手は、やはり篝をとらえ切れない。

 いくら躱すのが上手くても、その四方八方十四方、それ以上の方向から連続して襲い掛かる『手』を全て捌き切るのは不可能に近い。

 少なくとも、全ての手の動きを『把握』しなければ不可能だ。


 だが、アイリスにはそれが出来る。


 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、そして危険を察知したりする超感覚を『第六感』とするのなら、篝のそれは『第七感』とも言うべきもの。


 それは、空間そのものを認識する能力。

 透視でもない、壁越しに何かを聞くでもない、空気の流れを肌で感じるでもなく、異常な嗅覚で何かを探し当てるでも、味覚で物体を識別するでもないし、もちろん直感でもない。

 ただ『空間』を把握する。それだけだ。

 篝には、視覚を頼らなくても、自分の周囲の全ての空間を『知る』ことが出来る。

 それは壁越しに誰かの動きを把握出来たり、人が何を隠しているのかが分かったり、いわば3Dモデルを見ているように、様々な空間を認識することが出来る。

 それは彼の感覚が届く範囲であれば物事を俯瞰的に観察することが出来、対象の形をスキャンするように見ることが出来る。



 それが、アイリスこと、天城篝に与えられた『第七感』と言う感覚器官である。


 そしてアイリスは、その第七感を使い、全方向からくる『手』の攻撃を完全に見切っていた。

 どんな死角からの攻撃も全て対応し切って躱し抜く。

 だが、そんなアイリスの動きを誘導することは可能。

 故にリストーンは奥の手を使う。

『手』を、まるで大砲の砲身のように組み上げる。

 その『手』を『金属』へと変え、電気を帯びさせる。

 そして、砲弾となる『手』を『鉄』に変えて、装填する。

「吹き飛びなさい」

 そして放たれるのは、超電磁の一撃。


百手超電磁砲ヘカトンレールガン


 放たれたのは、音速すら超える不可視の一撃。そして直撃すれば、確実にその体は消し飛ぶ。

 音は、後から聞こえる。

 音が聞こえる頃には、全てが終わって――――


 ズドォォォォォォン!!!


 激しい衝撃と光が、夜闇を切り裂く。

 保温カプセルとブローニャによって衝撃と光に守られたアリスとラーズグリーズは無傷だ。

「っ・・・篝さん!」

「大丈夫です!あの人なら無事です!」

 アイリスの元に行こうとするアリスを抑えながらラーズグリーズは叫ぶ。

「ふ、ふふ・・・私のレールガンは秒速3000mを誇るのよ。避けるどころか防ぐことだって出来ないわ!これで顔無しは終わりよ!何百人もの同胞の仇よ!アハハハハハハ!!!!」

 勝ち誇ったかのように笑いあげるリストーン。

「―――おい」

 だが、聞こえてきた声で、その笑い声が固まる。

「誰が終わりだって?」


 ―――ギガシリーズ『ギガシールド』


 展開されていた、半透明の巨大な盾。それが、アイリスを守っていた。

「は?え、それ、純エーテル・・・?混じりっ気のない、純粋な?なんで、それを貴方が使えて・・・」

 混乱するリストーン。

「知っているならわかるな。『純エーテル』は一度結晶化すれば、もう何者の干渉を受け付けない―――持ち主以外にはな」

 盾だったエーテルが形を変えて別の姿へと変わる。

 形を変えたエーテルは、巨大な拳を作り出す。

「―――必殺ギガシリーズ―――」

 アイリスが、銃剣を地面に突き刺し、そして、拳を引き絞る。

 その時、リストーンは、彼の背後に機械仕掛けの巨人の姿を見た。

(きょ・・・じん・・・!?)

 それが一体何なのか、それを知る前に拳は放たれた。


「―――『ギガナックル』」


 腕を振り抜く。それと同時に、巨大な拳がリストーンに迫る。

 その巨大さはさることながら、まさしく巨人の拳のように大きかった。

 その巨大さは、ヘカトンケイルの『手』ではその質量の前に呆気なく弾き飛ばされ、そして、

「ぐえっ」

 リストーンを雪原の彼方へと殴り飛ばした。

 そしてすかさず地面に突き立てたままの銃剣を引き抜き、アイリスはその銃口を吹っ飛んでいったリストーンに向ける。

照準ロック―――発射フォイア

 まるで機関銃マシンガンのように、光弾が彼方のリストーンを襲う。

 激しく煙が巻き上がり続ける。

 だが、アイリスの第七感には見えている。

(全部防がれている)

 再生した『手』を使って、どうにか防いでいるようだ。

 光弾は着弾すれば爆発して『手』を確実に破壊しているが、その破壊と再生がどうやら拮抗しているようだ。

 だが、先ほどの『ギガナックル』のダメージが、思ったより大きそうだ。


『手』の再生が、鈍い。


「接近した方が、早い」

 射撃をやめ、アイリスは姿勢を低くする。

 そして、地面を蹴って、恐ろしい速さで一気に雪原を駆け抜ける。

「顔無しィィィイイイ!!!」

 リストーンは叫ぶ。それと同時に無数の手がアイリスを襲う。

 アイリスが、銃剣を銃床を肩に当て、地面を踏み締める。

 そして、その一歩でヘカトンケイルの『手』ですら反応できない速度でリストーンとの距離を詰め、

「これで――――」


 アイリスは、銃剣を突き刺すと同時に引き金を引いた。


「―――終いだ」


 創造弾種クリエイトバレット近接炸裂弾クロススマッシュ


 引き金を引き、炸裂した近距離炸裂型の弾丸が、リストーンのコアを撃ち抜く。

「そん・・・な・・・!?」

 コアの破壊と共に、彼女を守っていたヘカトンケイルの『手』も消失していく。

 リストーンも、その体をエーテルへと変換し、消滅していく。


 決着は、着いた。


「・・・・思い出した」

 倒れ伏したリストーンが、呟く。

「貴方のその戦い方、どこかで見たことがあると思ったら・・・何故、貴方が、ワルキューレスタイルを使っているの!?」

 消滅しながら、リストーンは騒ぎ立てる。

「その戦闘術は、あの人だけの、『ブリュンヒルデ』を与えられたアイリス様だけしか使えない特別なもの、それを、いやしい男の分際で真似するなど・・・っ、待ちなさい!どこに行くつもりよ!」

 アイリスは、無視して立ち去る。

「どういうことなのよ!どうして貴方がそれを、答えなさい、答えなさいよ!」

 リストーンは叫び続ける。だが、その叫びも、体の消滅と共に立ち消えた。






 アリスはラーズグリーズと一緒に、彼が戻ってくるのを待っていた。

 自分と共にいてくれると言ってくれた、いつか自分が嫁となる男の帰りを。

 そして彼は戻ってきた。

「終わったぞ」

 そう言って、アイリスは―――篝はライフルを肩に担いで、アリスの頭をぽんぽんと叩いた。

「っ・・・はい・・・!」

 アリスは、泣きながら、精一杯に言葉を返した。

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