第5話 襲撃
――――しくじった。
ソーニャは足元に転がる『肉塊』を踏みつけながらそう思った。
「これはどういうことかしら?」
「っ!?」
血が飛び散った、ボロ小屋の中で、突如として聞こえてきた声に、ソーニャは体を強張らせる。
「り、リストーン様・・・!?」
リストーンと呼ばれた、純白のドレスを纏った女。その女に、ソーニャは酷く怯えていた。
「も、申し訳ありません!まさか、リストーン様ではなく、帝国軍が来るとは思わず・・・・いえ、この失態は私の命をもって・・・!」
そう言ってナイフを取り出すソーニャ。しかし、そのナイフを首に向けようとした所で、リストーンがその手を抑えた。
「大丈夫よ、ソーニャ。貴方は何も悪くないわ」
ソーニャより高齢。しかし、その美貌は聖母を思わせる雰囲気を纏っていた。
その金髪を揺らしてソーニャの頭を撫でる。
「それに、汚らしい豚と一緒の場所でその命を絶つ必要はないわ。貴方はよく頑張った。それがどこかの犬に泡にされたらたまらないわ。大丈夫、私があの子を取り戻してあげる。貴方は気にせず、いつも通りにしてなさい」
「リストーン様・・・」
「でも、こんな方法しか取れなかったことだけは、ちゃんと反省しておいてね」
そう言って、リストーンはソーニャを抱きしめた。
その行為にソーニャは驚いても、すぐに受け入れて力を抜いた。
「はい、リストーン様・・・」
ソーニャを屋敷に戻し、リストーンは街の外に出る。
「さあ、行くわよ。私たちのお姫様を取り戻しにね」
「「「はい、聖女リストーン様!」」」
数十人の女たちを引き連れ、リストーン・レキントは彼女たちが受け入れる筈だった少女を取り戻すために進撃する。
「待っててね。貴方のいるべき場所に連れて行ってあげるから」
聖女は、恍惚に笑う。
そして、そこから八時間後。
日が落ちて、北方にあるだけに吹雪いてきた頃に、彼女らはやってきた。
荒野の中に存在し、雪が深く積もったサトランタ基地を見下ろせる丘に、一人の黒髪の少女が佇んでいた。
その周りには、犬歯をむき出しにして唸る猛犬たちがいた。
「行って」
基地を指さし、少女はそう告げた。
それに応じるように、猛犬たちも、一斉に基地に向かって走り出す。
「うう、さぶっ」
基地外周を見回っていた兵士一名と戦姫一名。
「全く、あんたたちって不便よねぇ」
「畜生、なんで俺たちは戦姫のように寒さに強くなれねえんだ・・・」
兵士の男はアサルトライフルを装備し、防弾ヘルメットを被り、それなりの防寒対策がされた装備だ。一方の戦姫は槍を一本持ち、軽装に身を纏っている。
女の方はその恰好で寒くないのかと聞かれると、戦姫はヴァリアブルスキンを纏っている為、あまり問題にはならない。
だが、こうして男女が
それ故に、それを快く思わない者たちがいる。
「ん?なんだあれ?」
ふと、兵士の男が暗がりの中、雪原に何かを見つけた。
それに戦姫も視線を向ける。
確かに、探照灯の影で、何かが近づいてくるのがどうにか見える。
「二番探照台、悪いんだけど南東の方、照らしてくれない?」
無線で伝えれば、その指示通りに探照灯の明かりが、その陰を照らす。
そこには、おびただしい数の猛犬の群れがまっすぐこちらに来ていた。
「何あの数・・・!?」
「本部!南東から大多数の犬を確認!異常な数だ!何かの襲撃が予想される!」
兵士のアサルトライフルが火を噴く。
放たれた弾丸が降雪を振り払い、走ってくる犬たちに襲い掛かる。
血が飛び散り、弾丸が当たった犬が次々と倒れていく。
だが、流石に一人では捌ききれない。
「数が多い!」
「任せて!」
捌ききれず、接近を許してしまった犬は戦姫の女の槍が貫き、振り払う。
だが、それでもやはり、数が多い。
「くっ!」
「え、うわ!?」
戦姫が後ろを向き、兵士を抱えて飛び上がる。
その跳躍力は凄まじく、すぐに塀の上に乗りかかる。
「あで!?」
乱雑に放られ、兵士は腰から落ちた。
「なにすん―――」
それに抗議しようとしたが、ふと戦姫が自分の腕を抑えているのに気付く。
「おい、どうした?」
「あの犬に噛まれた」
手をどければ、噛まれた痕からわずかに光の粒子が漏れ出ていた。
「ヴァリアブルスキンって、エーテルでの攻撃じゃないと傷一つつかないんだよな?」
「ええ・・・あの犬、牙や爪にエーテルを纏ってる」
見下ろせば、大量の犬が、お互いを足場にして壁を上ろうとしていた。
その数と、その上り具合を考えれば、超えられるのは時間の問題だった。
「こなくそっ!」
すぐに兵士がライフルを乱射する。
だが、それでも出来た死体を積み上げて足場して壁を越えようとしていた。
「統率されてる・・・やっぱりこの犬ども」
マガジンを変えながら、兵士は叫ぶ。
「敵襲だ!間違いない!犬は操られている!!」
その直後、非常事態を知らせる警報が鳴り響いた。
「天城中尉!」
ドルトンが駆け込んできた。
「何があった」
「襲撃です。今、兵士たちが対応していますが、数が多く、このままでは突破される可能性が・・・」
「分かった。俺も戦線に参加する。アンタはこの子を見ててくれ」
「了解しました。ご武運を」
篝は少女の方を見た。
「ここで大人しく待ってろ。見ていて気分が良いものじゃない」
「わ、分かりました」
「大丈夫ですよ。この人、強いですから」
そう言い残して、二人は走り去る。
その様子を、少女は見送ることしかできなかった。
そんな少女の傍らに、ドルトンは言う。
「大丈夫さ。彼は、この国でも特に強い人だからね」
その意味を、少女は理解できなかった。
基地内は今、大騒ぎであった。
ズダダダダ、とライフルの銃声があちこちで鳴り響き、金属がぶつかり合うような音も響く。
「くそっ、乱戦だと上手く狙えねえ!」
「あ、ちょっ、そこ危ないぞ!」
「気を付けて、上崩れるわよ!」
「医療班!医療班!」
基本的に戦姫が前線を張り、兵士が後方の銃撃にてサポートするのがこの帝国における基本戦術だ。
だが、時としてその戦術が仇となる状況がある。
それが敵味方入り乱れる乱戦だ。
銃は射程内であれば真っ直ぐに弾丸を飛ばすことのできる兵器だ。
だが、まっすぐにしか飛ばない為に乱戦の場合、近接武器のように寸止めは出来ない。
間違って相手を誤射してしまう可能性があるのだ。
弾道を操作するスキルを持つ可能性のある『戦姫』とは違う。
だがそれでも数の優位は覆せる。
「敵戦姫一!」
「こっち弾幕!」
「グレネード投げるぞォ!!」
混乱していた場が徐々に統率を取り戻していく。
しかし、その最中で投げられたグレネードが、空中で爆発した。
「なんだァ!?」
驚いた一同。
「おいおい、何やってんだよ」
声がした方を見れば、そこには三人の戦姫が立っていた。
「きたねえ豚どもなんかの力借りなきゃやってられねえクズども相手に手こずってんじゃねえよ」
獣のような衣装をした褐色の戦姫。
「彼女たちもまた尊い存在。それを汚らしい血で穢すとは言語道断」
大きな盾を持った重装甲の戦姫。
「殲滅すべし」
そして、黒いコートに身を包んだ小柄な黒髪の戦姫。
「っ!迎撃準備!」
帝国軍側の戦姫が叫ぶ。
「おせぇよ」
だが、それよりも早く獣の戦姫が、その戦姫のすぐそばまで近づいていた。
「なっ」
そして、恐ろしい速さでその腹に膝蹴りを叩き込み、吹き飛ばす。
「このっ!」
すぐに近くの戦姫が剣を振り上げて襲い掛かる。
だが、
「ぬるま湯につかったテメェらなんざに、アタシが斬れるかよ!」
首の根本に叩き込まれた剣は、その皮膚すら斬ることは出来なかった。
「そんな・・・」
「離れろ!」
そこへ兵士の一人がバララッと銃弾をばらまき獣の戦姫に降り注ぐ。
だが、銃弾は獣の戦姫の皮膚に呆気なく弾かれてしまう。
「エーテルコーティングした弾丸が効かない・・・!?」
「ああ?テメェ、今何し―――」
瞬間、その兵士がいた場所が吹き飛ぶ。
「「「うわぁぁあああぁああああああ!?」」」
「豚の分際で我ら尊き存在に楯突くとは、おこがましい」
巨大な盾のシールド部分に砲身が六問突き出ている。
あれで砲撃したのだろう。
「ち、ちくしょ―――」
どうにか砲撃を逃れた兵士が、地面を張ってその場を離れようとする。
だが、そこへ飛んできた光が彼の頭を射抜き、沈黙させる。
「神聖なる砲撃、逃げちゃダメ」
そこには人差し指を彼らに向ける黒髪の戦姫の姿があった。
その指先は、他にも逃れた兵士たちの命に向けられる。
「豚は死なないと」
放たれる光弾。だが、それを一人の戦姫が剣を持って叩き落す。
「どうして庇うの?そいつら豚だよ」
「私も四年前まではそう思ってたよ!だけど革命が成功して、それで体制が変わって、色々と変わった時はふざけんなって思ったよ!でも、豚じゃない、人間として見ていくうちに、私たちが間違ってたんだってわかったんだ。だってこいつらは、私たちと何も変わらないから!」
その言葉を獣の戦姫は嘲笑う。
「はっ、同じ?ふざけてんじゃねえぞこのクズ」
「そうだ。バカなこというのはやめなさい。彼らはこの世に存在している事が謎なくらい無意味な存在だ」
「それを決めるのはお前たちじゃない!」
そこで、その戦姫の顔が不敵な笑顔に変わる。
「それに、もうおしゃべりは終わりよ」
「何?」
「あとは頼んだわよ。英雄―――」
その言葉に、首を傾げる獣と盾の戦姫。
「ぎぁ・・・・」
背後から、呻くような悲鳴が聞こえた。
二人は振り返る。そこには―――
―――胸を背後から刺された、黒髪の戦姫の姿があった。
「な―――」
「ぁ・・・ぁ・・・・」
思考が一瞬停止する。
だが、獣の戦姫は首に何かが近づいている事に気付き、すぐさまそれを叩き割った。
「っ・・・!?」
「テメェ!!」
そして背後に向かって拳を放つ。
その影はその一撃を躱すと、距離と取った。
くすんだ白髪と黄色の瞳。大人の体格と、どこかあどけなさの残る素顔。そしていやに露出の多い暗殺者装束―――。
「そのナリ・・・テメェまさか!」
その姿は、戦場で聞いた噂と合致する。
複数の姿と能力を使い分け、幾たびの戦場を越えて何百人もの同胞を屠ってきた顔無しの戦姫―――
「『ノーフェイス』か!?」
「・・・」
その女は―――『ノーフェイス』であり、『天城篝』である女、コードネーム『アイリス』は、刀身を砕かれたメスを捨てて、新しいメスを取り出し構える。
(敵は、二人・・・)
未だ乱戦状態ではあるもの、他の奴らはここの基地の隊員でも十分に対処できる。
「すぐに怪我人を連れてこの場を離れろ。安全な場所に移動して応急処置を行ったら戻って他のクソッタレどもの排除に当たれ」
「了解、年下の中尉さん!」
「させっかよ!」
獣の戦姫が、アイリスに襲い掛かる。
『このひと、わたしじゃ無理かも』
「分かってる」
獣の戦姫が突如として目の前の視界から消える。
目に見える速度で近付き、間合いに入る直前でさらに加速し、視界を誤魔化し、さらに懐に飛び込んだのだ。
だが、獣の戦姫がそうするのと同時にアイリスも前進。獣の戦姫の背中を飛び越え、獣の戦姫のボディーブロウを躱す。
「コネクトチェンジ―――」
同時に、メスを投げ、牽制する。それを獣の戦姫は鬱陶しそうに弾き飛ばす。
「―――ジャッジアクティブ」
次の瞬間、アイリスの姿が変化する。
長い白髪は、黒髪のセミショートボブへ。姿も、その肉体も、何もかもが別の女性へと変化する。
着地したその姿は、一言で言えば勇ましい、だった。
その少女は、琥珀色の瞳を獣の戦姫たちに向ける。
「チィッ、姿が変わった所で―――」
ドドドンッ!!
獣の戦姫の脇で、盾の戦姫が砲撃する。
アイリスは一瞬にして火砲に飲み込まれる。
「おいおい良いのかよ?」
「奴は構わない。奴は、尊き存在の皮を被った悪魔だ」
その瞳は、憎悪に燃えている。しかし、砲撃が直撃した筈のアイリスは、全くの無傷で煙から姿を現し、一気に盾の戦姫へと接近する。
「来い。貴様の化けの皮を―――」
と、盾の戦姫が言い終わる前に、アイリスはその巨大な盾の前で右足を突き出し、反時計回りに回転。直後に盾の砲が砲火。放たれた砲弾は基地の壁を破壊する。
だが、その間にアイリスは獣の戦姫に接近する。
「はっ!いいぜ、来いよ!」
獣の戦姫が体を広げる。
(アタシの体は鋼をも上回る。拳なんかで通せるほど軟じゃねえ!)
獣の俊敏性、硬度、感覚を持っているのが獣の戦姫のリンカーのスキルだ。
このまま拳を放った所で大したダメージにはならない―――だが、
拳はめり込んだ。
「おっご・・・・!?」
予想外の事態に理解が追いつかず、獣の戦姫は膝をついて倒れた。
(な、なんで・・・)
アイリスの手は、開かれ真っ直ぐに揃えられていた。即ちは貫手を鳩尾に食らったのだ。
それを獣の戦姫が理解する前に、こめかみにアイリスの蹴りが炸裂。獣の戦姫は地面を回転する。
「貴様っ!」
すかさず盾の戦姫が、盾を振り上げる。
「コネクトチェンジ―――」
「させんっ!」
姿が変わる前に叩き潰すべく、盾を振り下ろす。
凄まじい衝撃があたり一面を襲い、土紛を巻き上げる。
煙でアイリスの姿が見えなくなる。
だが、振り下ろした筈の盾が、徐々に押し返されていく。
「なっ・・・」
「―――ゲイルナイト」
風が、煙を吹き飛ばす。
その手に持つのは白銀の長剣。身にまとう鎧は騎士の鎧。靡く髪は金の絹。
「その、剣は―――!?」
次の瞬間、盾の戦姫は吹き飛ばされていた。
「風の、聖剣・・・・っ!?」
白銀の剣を持って、アイリスは三つ目の姿でそこに立つ。
そこへ再び獣の戦姫が襲い掛かる。
「テメェ!!」
獣の戦姫が開いた手を振り下ろす。
その一撃を躱したアイリスは、瞬く間に長剣の一撃を叩き込んだ。
「がぁ!?」
「ん・・・?」
吹っ飛ばされた獣の戦姫はそのまま建物の壁を突き破り、アイリスは剣の手応えに違和感を感じた。
(この感触・・・)
『ああ、薄皮一枚切れていない。どうやら相当固いようだ』
剣の方が欠けていないことを確認する。
その最中で、獣の戦姫が起き上がってくる。
「そうだ!アタシの体に傷をつけられる奴はいないんだ!アタシは無敵だ、無敵なんだ!」
(奴は一旦無視しよう)
アイリスは、獣の戦姫に目もくれずに、起き上がろうとしている盾の戦姫の方を見た。
(奴から先に片付ける)
剣を構える。
そして、背後で風を爆発させて、その勢いに乗って盾の戦姫に突っ込む。
「くっ!」
盾の戦姫は当然、盾を構えて迎え撃つ。
(大丈夫だ。私の盾はエーテル砲弾すら受け止めた。奴のような汚れた存在の一撃など―――)
ざしゅっ
「ば・・・かな・・・」
戦姫の急所。
それは、頭から首にかけての部位と胸の中心にある『コアキューブ』と呼ばれるヴァリアブルスキン唯一の器官。
頭の破壊、もしくは首が斬り落とされれば、体は命令形を失い、絶命する。
そして、コアキューブはヴァリアブルスキンの心臓をともいえる存在であり、故に固く、対戦姫戦では、必ずそこを狙えと教えられる。
何故なら、破壊すればいかなる蘇生手段を用いても、その者の絶命を止めることは出来ないからだ。
それが、戦姫の弱点。
「終いだ」
剣を引き抜き、盾の戦姫は倒れる。
戦姫の死は、死体が残らない。
ヴァリアブルスキンは、肉体がエーテルへと変化した言わば『エーテル体』ともいうべきものだ。
それを形にしているのがコアキューブであり、それを破壊されればエーテルの結束は崩れ、霧散する。
つまりは、消滅するのだ。
「テメェェエエエ!!!」
獣の戦姫がやっとこちらに飛び掛かってくる。
だが、やはりアイリスは彼女を見なかった。
「コネクトチェンジ―――」
次の瞬間、巨大な鉄腕が獣の戦姫をハエのように叩き潰した。
「―――ラーズグリーズ」
アイリスの姿は、もはや女性ではなくなっていた。
それは天城篝の姿をそのまま映し、帝国軍のものとは違う軍帽を被り、その衣装も襟開きのシャツにジャケット、スキニーパンツとロングブーツを履き、その右手には、立派な骨董品系の銃剣の付けられたマークスマンライフルを携えていた。
そして、獣の戦姫を叩き潰した拳。
その腕は鉄であり、そして、その鉄腕を持つ怪物は、上半身、それも胸までしかない異形を模した機械だった。
そして、その傍らには、少女が一人、操り、守らせているかのように浮いている。
その、銀髪と特徴的な縦ロールのツインテールは間違いなくラーズグリーズだ。
基本的に、リンカーは使用する者のみの肉体をヴァリアブルスキンへと変え、超人へと変身させる。
だが、この『ラーズグリーズ』というリンカーは、それだけにとどまらず、自らも実体化する特殊なリンカーである。
リンカーは記憶媒体の側面を持つ。
旧文明時代の伝承、使用者本人の記録、伝説の人物、歴史の偉人―――
一般の戦姫が扱う『ブランクリンカー』及び『カラーリンカー』と違い、そのリンカーは持ち主を選ぶ。
リンカーの中に意識が存在し、その意識が持ち主を選ぶ。
拒絶することも、受け入れることもある。
ものによっては、凄まじい力を発揮するものも存在する。
それが『カイロスリンカー』である。
「―――撃滅完了」
強敵と思われる三人を排除し、篝は状況を確認する。
「向こうも一通り終わったか」
「篝中尉!」
そこへ武装したカールがやってくる。
「ノレーモ伍長、状況は?」
「敵は粗方片付けました。と、いうよりは、捉えようと思ったら全員自害してしまって・・・」
「情報を渡さない、ってことだな。であれば確定か・・・・」
「確定ってどういう・・・」
「『アクトレス』だ」
「アクトレスって、あの・・・!?」
カールが目を見開く。
「ああ、俺たちが戦っているもう一つの敵・・・」
『アクトレス』
この世の女尊男卑による『秩序』を守っていると言われる組織。
その構成員は全て女性。協力者も全て女性。
規模、人数は不明ながらも、その手は世界中に及んでおり、彼女らの資金援助を、世界中のどの会社も企業も行っているという。
その理由は、彼女たちアクトレスがあらゆる企業に存在し、あらゆる民家に存在し、あらゆるコミュニティに存在するからである。
彼女らの行動目的はただ一つ。この女尊男卑社会の秩序を守り、それを乱す者の排除、即ち男の反乱を未然に防ぎ、排除すること。
その為であればどのような手段もいとわず、あらゆる企業が彼女らの隠蔽工作に協力し、全てなかったことにされてしまう。
世界規模で暗躍する裏から秩序を守る存在。それがアクトレス。
いつかは『男』という存在を永遠に葬り去る為に、表世界で善人を装う『女優』たちである。
即ち、この戦争は女尊男卑社会を守ろうとする『アクトレス』との戦いでもある。
「規模が規模なだけに、人員も底知れない。さらに組織に対する忠誠心が凄まじい。だからこうして自らを捨て駒にすることも厭わない」
「哀れな人たちです」
ラーズグリーズは軽蔑するように彼女らの死体をみた。
すでのその体は粒子―――エーテルとなって消滅しかけていた。
エーテルとなって完全に消滅した後は、その本人が使用していたリンカーのみが残る。
それだけが、その戦姫がそこにいたことを証明する唯一の手掛かりである。
「念のため、警戒班と救護班に分かれて、警戒を――――」
そこで、アイリスの言葉が途切れた。
「ん?中尉・・・」
「・・・」
アイリスは、ある方向へと目を向けた。まるで信じられないものでも見たかのように。
「・・・・ノレーモ伍長、一人だけでもいい。衛生兵を至急第二医務室へ!」
「え?中尉!?ラーズグリーズさん!?」
アイリスがいきなり駆け出し、そのあとをラーズグリーズと機械の巨人が追う。
「篝さん!」
「分かっている!」
戦姫特有の身体能力で基地内を突き進み、一分とかからず、あの少女のいる医務室へと駆け込む。
扉は開いていない。
だが、開け放った時、冷たい冷気が頬を刺した。
「っ・・・・!?」
そこには、そこにある筈の壁が、削られたかのように消滅していた医務室があった。
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