60.うつろう牢獄

 無防備になったウイークエンダーの頭部。

 赤く、うしろに長い逆3角形。

 両目を模したカメラがついている。

 そのオデコに当たる部分から、黒い炎をほとばしらせる!


 私たちのメガ・エニシング・キュア・キャプチャーは、ツヤのある黒い魔法炎でできている。

 宝石みたい。

 対して巨人のは、ツヤのない、何かカサカサした黒。

 巨人が胸を張って立つ。

 「どんな攻撃でも来い! 」とばかりに。

 そこめがけて!

 ドン! と、打撃音。

 巨人の足が、ググっと下がった。

 高熱も襲ってるはず。

 みるみるうちに雨や川が蒸発する。

 これにも耐えた。

 でも、もう動けない。

 エニシング・キュア・キャプチャーの不思議な性質、その1。

 固まるんだ。

 しかも、重さを変えれる。

 今は、できるだけ重くしたから!

 そう言えば、あのすぐ固まる性質、ウレタンのスプレーみたい。

 ビニールのテントの内がわに吹き付けると、固まるし断熱効果もある。

 すばやく建つ仮設住宅に使われるんだよ。

 

 魔法炎の最初の射線は、巨人から私たちへ延びる1本の線になって固まった。

 その重さに耐えれず、巨人の上半身が下がっていく。

 次に私がねらったのは、足回り。

 動けないスキに、周りをぐるりと回る。

 炎がドンドンたまって、ドーム状になる。

 もう動けないよ!


「さあ、キックだよ! 」

 私たちは、ふたたびキックの構えをとる。

「目標! 巨人の足! 最初の射線の下を通る! 」

「了解! 」

 あの鋭い衝撃をもう一回やったら、機体が完全にどうにかなりそう。

 それでも!

「「行けぇ!! 」」

「え? 何をです? 」

 はーちゃんだけ置き去りにして。


 エニシング・キュア・キャプチャーの不思議な性質、その2。

 しかけた本人は、キャプチャーの中で自由に動ける!


 巨人が、私たちへ拳を振り下ろす。

 だけど、黒い炎はポヨンポヨンと跳ね返してくれた。

 その炎の中にすりぬけて、ねらい道理のキックを!

 また足がしなるほどの、衝撃!

 跳ね返された!

 だけど、うまく着地できた!

「おのれぇ!! 」

 巨人がおってくる。

 しまった!

 炎からでちゃった!

 巨人は、こん棒をもって振りかぶっていた。

 必死になってる。

 いつの間に?!

 ああ、最初の射線を引きちぎったんだ。

 それに、自分のツヤのない炎をまとわせて、振り下ろす!

 走らなきゃ!

 足からギシギシとか、キーとか変な音がする。

 それでも、キャプチャーの中に入れた!

「「ウワー! 」」

 ウイークエンダーより大きな足に、殴りかかった!

 相手は動けない。

 殴りつづける。

 できるだけダメージをあたえないと!

 頭上では、巨人こん棒が何度も振り下ろしてる。

 その度に、キャプチャーがちぎれて、減っていく。

 殴りながら、ひたいから炎をはなつと、キャプチャーが内側からふくらんだ。

「エネルギーみるみる減ってる! 」

 安菜の言うとおり。

 一応、無限炉心は機能してる。

 けど、使うエネルギーが多すぎるんだ。

 エネルギーをため込んだ分を使いきれば、フルパワーはだせない。

 

「意見具申、よろしいですか? 」

 はーちゃん、なに?

「メガ・エニシング・キュア・キャプチャーのいるあいだは攻撃されません。

 なら無理に殴らなくても良いのではないですか? 」

 それもそうか。

 私は、なぐるのをやめて、後ろに回り込んだ。

 そしてレスリングや相撲の要領で!

 相手の腰に突進! 

「しがみつけ! 」

「任せて! 得意分野! 」

 安菜のハグは、攻撃に使える?

 腕の出力が一気に上がってる?

 装甲がメキメキと曲がりはじめた。

 その分、巨人にめり込んでいく。

 ベアーハグってヤツなんだ。

 よーし、このままーー。

 

 いきなり、頭の上から打撃音がした。

 見上げたら、巨人がこん棒を振り下ろしてた。

 足は前を向いたまま、上半身だけを後ろに向けて。

 そうだ。

 相手の体はエネルギーなんだ。

 形を自在に変えれるんだ。

 またキャプチャーをえぐられていく!

 

 巨人の後ろから、新しい打撃音がして、何か黒いものが飛びちった。 

 巨人の動きが止まる。

 黒いものは人の形をしていて、次々と飛んでくる。

 あれって、まさか。

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