58.噂で襲われた私

「美しい像だね」

 たしかに。

 ボルケーナ先輩の体は液体なんだ。

 だからいつも、たれたり曲がったりする。

 そこからもっとも美しい姿を見つけ出して、形にするその技術は素晴らしいと思う。

 形が変わらないのは、MCO自身が旗印としたからかな。

「うらやましい?」

 そう言われて、考えてみた。


――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――


 まず、ウイークエンダーを巨大像化させてみる。

 ・・・・・・形が変わらないなら、なれたやり方で動かせる・・・・・・。

 いや、ありえない。

 大きさが変わるだけで動きとか、傾くバランスとかが変わってしまう。


 私自身は・・・・・・恥ずかしい!


 何か好きなものなら。

 色も変えれるし。


 超巨大ショートケーキ!

 白いクリームにおおわれた丘のように。

 抱えるほどもあるイチゴ。

 それがグルグル回転しながら、敵をけちらすの。


 安菜に不思議なドレスを着てもらうのはどうだろう。

 黄色が似合うかな。

 動くシッポも良いかも。

 それで、悪党どもを素手で、足りないなら超振動でバッタバッタとなぎ倒す!


 このどのアイデアも、ふざけたモノではない。

 これをやって出世した異能力者は、いるんだから。


――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――


「やめとこう。

 人が死なないと、できない芸術なんて・・・・・・」


 滝の下、朱墨ちゃんの小学校も見えた。

 なんとか、海水の濁流からは無事だったよ。

 近くに、パーフェクト朱墨とブロッサム・ニンジャがいる。

 まわりは自分より小さなこん棒エンジェルス。

 パーフェクト朱墨は、たくさんの黒い炎をぶつけられていた。

 その翼は全て下ろしてた。

 こきざみに立つ位置や向きをかえて、降りしきる攻撃に耐えてる。

 ブロッサムが、かばってる。

 足で踏みつぶしたり、殴り付けて。

 どっちも鋭く、素早い動き。

「ねえ。あんな動きをする機体じゃないでしょ? 」

「ええ。もちろん」

 パーフェクト朱墨の翼の中が、チラリと見えた。

「バスを抱えてる! 」

 たぶんスクールバス。

「あれをかばってるんだ! 」

 ブロッサムは?!

 砲撃じゃ、バスや付近に被害がでると思ってるんだ!

 ほとんど巨大な大砲として作られたブロッサムの両腕。

 手はあるけど、それほど器用じゃない。

 その手に、握り込めるサイズのこん棒エンジェルスをつかんで、ぶつけてた。

 

 街に光がある。

 電気じゃない。

 赤やオレンジの炎は、こん棒エンジェルスが起こしたもの。

 家のすぐ上に、頭が見えた。

 それも、たくさん。

 体を隠していた家が、コナゴナになって黒い炎とまじりあい、飛び散った。

 こん棒を休みなく、まわりにあるモノに叩きつけてる!

 さっき、朱墨ちゃんの知りいのハンターキラーが言ってた。

 こん棒エンジェルスは、私たちに試練を与え、私たちはそれを乗り越えなければならない。

 だけど、これに意味なんか見つけれない。 

 あらわれたときは、私たちよりも消防を。

 いまは、家も、店も、自動車も。

 順番に弱いものを、叩きつぶすとしか見えない!

 そのこん棒エンジェルスが、ハンターキラーの防弾で倒れた。

 だけど、また立ち上がる。


「キックした巨人が動いてる!」

 安菜が叫んだ。

「こっちを見てる! 」

 本当だ。

 まっすぐ、私に何かしようという、意思をもって。

「お前があ! 噂のウイークエンダー・ラビットだなぁ!!」

 吠えた。

 雷の音のように、装甲を越える音として。

「言え! 閻魔 文華さまはどこだ! 」

 私たちの方へ、かけだした!

「どこへ隠した?! 」

 怒りの声に、身がすくむ。

 震えがわき上がる。

 だけど、「えいっ!」

 まずは、はずしたキューポラを投げつける!

 巨人の頭に、正面から叩きつけることができた!


 その後ろの山で、巨大な稲妻が落ちた。

 それが消えない。

 落ちつづけてる?

 違った。

 稲妻が落ちつづけてるのは、デコとペタの、双頭のワシだ。

 下には、巨人が山を登るとき援護射撃した部隊がいる。

 デコとペタのワシは、自分たちの体を避雷針にしたんだ。

 そのまま敵を全身で焼き尽くしていく!

 

 あの2人がくれたチャンス。

 まずは、近いディメンションと合流する!

 助け出したら、ブロッサムたちも助けて、巨大戦力を確保する!


「安菜! 」

 川から土手へ走りだす。

 足に引っ掛かった電線が、あっというまに電柱を引き倒しながら切れた。

「何?! 」

 巨人の立ち上がりは速かった。

 仲間のことは、もうあきらめたのかもしれない。

「この事は許されるかもしれない。

 だけど忘れないで」

 ウイークエンダーの両手から、あるだけの手りゅう弾を川にまいた。

 巨人のまわりで爆発する。

 川の水も巻き込んだ衝撃で、打ちのめす!

「閻魔 文華さまは、どこだぁ!! 」

 衝撃は、回りの建物も巻き込んだ。

 ガラスが割れ、壁に穴が空くのが見えた。


「安菜! モニターに使える情報はないの!? 」

「ダメだよ! まだ内部の診断?が終わらない! 」


 手りゅう弾の爆発は続いてる。

 その燃える水しぶきでさえ、巨人を止められなかった。

 砲撃を!

 振り返ろうとした。

「火器コンテナは、動かせません。

 発砲そのものと、コンテナの切り離しは可能です」

 男性の声が聞こえた。

 すぐ後ろから。

 振り返るのはやめる。

 走りつづける。

 でも、ついに追いつかれた。

 背中のコンテナを捕まれた!

 足を止められる前に、切り離す!

 走らなきゃ、終わりだ!

「空挺ユニットは、使用可能です」

 また、あの声が。

 モニターの表示は、まだノイズが走る。

 聞こえた声を信じた。

 飛行ユニットが、動く。

 ウイークエンダーの機体は、浮かんだ!  

 巨人は、私たちからうばったコンテナを振り回しながら追ってくる。

 その捕獲より速く私たちは空に浮かんだ。

「はーちゃん? 」

 気づいたのは、安菜だ。

「はい。私は破滅の鎧です」

 私を逃がしてくれた、その声は。

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