主人公が来るのを待ってたら一般人が来た
猫戸ヤマメ
第1話
――ついにこの日が来た。
長かった。どのくらい長かったって……どのくらいだっけ。
「神さま。私が生まれてから何年たった?」
(今日でちょうど520年目です。)
「ありがとう」
520年だった。
520年ものあいだ、主人公が来るのを待ってた。
――ずっと『主人公が来るからその人を支えられるようになってください』と教わり続けた。
そう言われても私にできることは教科書を読むくらいで……だから何回も繰り返し、繰り返し、暗記するほど読んだ。
そのぶん予習は完璧、だと思う。
――でも、それも今日で終わり。いや、今日から始まる。
教科書は『主人公はとても格好良くて強い』んだと、教えてくれた。
同時に、『主人公が主人公であるためにはいくつかの要素が必要』だとも教えてくれた。
主人公が主人公であるために必要なことってなんだと思う?
――主人公のとなりには、必ず『ヒロイン』がいる。
なんか、主人公とヒロインはセットなんだってさ。
ところで。
神さまいわく『この世界には、あなたしか存在しません』だそうで。
最初は意味が分からなかったけど、今なら分かる。
この世界には、本当に私しかいない。他には誰もいない。
――今日、主人公が来る。
私しかいない世界に主人公が来るのなら、私がヒロインにならないと、主人公は主人公でいられないよね。
そんなわけで私は『ヒロイン』になるべく――
(お願いですから、服を着てください)
「神さま。本当に今日主人公くるの? ……この質問、何回目だっけ?」
(来ます。83回目です。話を聞いてください)
「ありがとう」
3時間くらい、服を脱ぎかけた状態で立っていた。
――。
「神さま、本当に」
(来ます。117回目です)
「ありがとう」
4時間が経った。
(……なぜ、主人公を待つのに、服を脱ぐ必要があるのですか?)
神さまが『あなたの行動が理解できない』と遠回しに言う。
「主人公とヒロインの出会いはびっくりするようなものじゃないとダメだからだよ」
教科書で、主人公はヒロインと、必ずすごい出会い方をしていた。
着替え中だったり、巨悪とのギリギリの戦いのなかだったり、他にもいろいろ。
この世界には私しかいないから、それらのほとんどは再現できない。
唯一できそうなのが、『ヒロインが着替えているところに主人公が遭遇する』。
(……何度聞いても分かりません)
「私が分かってるから大丈夫!」
神さまがため息をついた。
『ため息をついたから幸せが逃げるのではない。幸せが逃げたからため息が出るのだ。――ナンタラ=カンタラ 《心を揺さぶる名言1選 p.26》』
神さま、幸せ逃げちゃったんだ……。
(……やはり、あれを読ませたのは間違いだったかもしれません……)
「なにを! 教科書を悪く言うのはたとえ神さまでも許さないよ! ……安心してよ。こうすれば主人公は絶対私にいちころだって。確殺できる」
(殺しちゃ駄目です……)
神さまがまたため息をついた。
神さま、幸せ逃げちゃったんだ……。
(……いらっしゃったら教えるので、それまでは服を着ていてください……)
「来たらわかるの?」
(分かります)
それを早く言ってほしかった。
私はもぞもぞとピンクのスウェット――むかし神さまがくれた――上下を着る。
そして、部屋の角にテレビと一緒に置かれている
――ウィーン……
ずっと立っていたから疲れた……。こたつの天板にあごを乗せてひとつ息をつく。
もう座ってるのもダルい。ああ……もっと楽な姿勢でゲームをしよう。
そして、ぽふっと横にな――ゴスッ、頭と畳がこんにちは。痛い……。
座布団をまくらにして、横になりながらコントローラーを操作する。
(横になってゲームをすると目が悪くなりますよ? ゲームをするなとは言わないので、せめて座ってやりましょう?)
もう何度も聞いた忠告。
神さまは私が横になりながら何かするたびに、こう言って説教してくるのだった。
「……ねえ、神さま。目が悪くなるってどんな感じ?」
話をそらす作戦決行!
(うーん、遠くのものがぼやけて見えるようになります。たとえば、今あなたはテレビに何が映っているかちゃんと見えますよね? 目が悪くなるとテレビに何が映っているのか分からなくなります)
「そうなんだ」
話をそらす作戦成功! やはりこの手に限る。
(ですので座ってやりましょう)
「……うん」
話をそらす作戦失敗!
主人公が来るのを待ってたら一般人が来た 猫戸ヤマメ @NekotoYamame
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